※ 記事中の為替レートは本記事執筆時点の2021年11月現在のものです。
Immutable Xとは
Immutable Xは、2018年創業のオーストラリアのImmutableが開発を進めるEthereumのNFTに特化したレイヤー2ネットワークです。Immutable X上でのガス代をゼロとしながら、最大秒間9000トランザクションを処理し、ERC721、ERC20トークンの作成や取引を可能にします。また、Ethereumネットワーク上での処理を削減してエネルギー消費を抑え、カーボンクレジットを購入することで「カーボンニュートラルなNFT」を目指し、環境に配慮している点もアピールしています。
Immutable X | The first Layer 2 for NFTs on Ethereum
Immutable Xを開発するImmutableは2018年にリリースされたブロックチェーンベースのトレーディングカードゲームGods Unchainedの開発元です。
画像: Immutableが開発するGods Unchained
Immutable Xは、2017年の仮想通貨バブル後のブロックチェーンや仮想通貨への関心が薄れた時期を生き抜いたImmutableがブロックチェーンゲームに本当に必要な環境を自社で開発し、他社にも開放している事例として注目に値します。ゲームの開発元がネットワークを開発している事例としてCrypto Kittiesを開発したDapper LabsのFlow、Axie Infinityを開発したSkyMavisのRoninネットワークなどがあります。
Immutableはこれまで2018年、2019年、2021年に三度に渡って合計7740万ドル(約88億円)の資金をベンチャーキャピタルから調達しました。また、2021年9月に行われたCoinListでのトークンセールではトークンが1時間で完売し、1250億ドルを超える資金を調達しました。
レイヤー2ネットワークの統計情報を扱うL2Beatによると、Immutable XのTVL(Total Value Locked、ネットワークにロックされた金額の総額)は2021年11月現在1964万ドル(22億円強)で、主要なレイヤー2ネットワークの中ではTVLのランキングで10位に位置しています。
画像:レイヤー2ネットワークのTVLランキング(L2Beatより)
また、Immutable XのTVLはリリース以降堅調にのびていて、トークンセール後に大きなのびを示しています。
画像: Immutable XのTVLの推移(L2Beatより)
2021年11月に入り、Immutable XのトークンIMXがFTXやHuobiといった海外の仮想通貨取引所で取引可能になりました。IMXは手数料の支払いに加え、今後ステーキングやガバナンスにも利用できるようになるようです。
画像: IMXの価格推移(CoinMarketCapより)
Immutable Xの仕組み
Immutable Xには、イスラエルのStarkWareとのパートナーシップのもと開発されたゼロ知識証明を用いたスケーリングエンジンが使われています。
Immutableのブログ記事によると、サイドチェーンや独自のブロックチェーンへの切り替えは選択肢になく、Ethereumネットワークの恩恵を受けられるレイヤー2を視野にソリューションの検討が進められました。レイヤー2の中でもゼロ知識証明ベースのソリューションがNFTの取り扱いに適しているとしてImmutable Xで採用されました。
Immutable Xには、Volitionという仕組みがあり、サービスの運用者はZK rollupまたはValidium ZK proofのどちらでNFTを扱うかを決められます。
画像: Volition(Immutableのブログ記事より)
ZK rollupではレイヤー2上でのトランザクションをまとめた各バッチ間での状態変化をL1に記録していきますが、Validium ZK proofではData Availability Committee(DAC)のメンバーが各バッチに署名しコピーを保管します。2021年11月に公開されたホワイトペーパーによると、現在のDACのメンバーはImmutableとStarkWareのほかDeversifi、Consensys、Nethermind、Iqlusion、Infura、Cephalopodを含む8社です。
ZK rollupではL1に書き込む費用がかかる一方、Validium ZK proofではDACを信用する必要があり、一長一短です。Immutable Xはブログ記事の中で、ZK rollupではEthereumネットワークよりも大きく手数料を削減できるものの、それでも数百万個といった大量のNFTを発行する場合には、数億ドル規模の出費がかかると試算しています。このような状況で、同ブログ記事では、高頻度の取引ではValidium ZK proofを使い、一日といった区切りでZK rollupを使用してEthereumメインネットに書き込むハイブリッドな利用方法を紹介しています。
Immutable XはNFTの販売や取引に対して2%の手数料をIMXまたは購入時の通貨で課します。IMXは手数料の支払いのほか、ステーキングや、トークンに関するガバナンスに参加するために利用できるようになる計画です。IMXの総量は20億枚に固定され、51.74%がエコシステムの開拓、25%がプロジェクト、14.26%がプライベートセール、5%がパブリックセール、残りの4%が準備金として割り当てられています。
Immutable Xの仕組みの概要は2021年10月に公開されたホワイトペーパーで読むことができます。
Immutable X Whitepaper V1.1 Published 20-10-2021
Immutable Xが注目される理由
さまざまなレイヤー2ネットワークが存在する中、Immutable Xの優位性として、Immutable Xを開発するImmutableはGods UnchainedのEthereum上での開発と運用を通じて、ブロックチェーンゲームやNFTがブロックチェーンに何を求めるのか実体験に基づいて開発を進めている点が挙げられます。
また、独自ブロックチェーンやサイドチェーンではなく、レイヤー2ソリューションを提供することで、分散性が高いとされるEthereumにデータを記録しながらも、手数料を下げ、処理能力を向上しようとしている点もImmutable Xの魅力の一つといえるでしょう。Ethereum上にデータが記録され、NFTをスムーズにEthereumとImmutable Xの間で移動できます。ゲーム関連のサイドチェーンとしてAxie Infinityを開発するSkyMavisのRoninネットワークがありますが、Roninネットワークはサイドチェーンで、パブリックなネットワークではなくAxie Infinityの専用ネットワークです。
Immutable Xのエコシステム
Immutableが開発するGods UnchainedのマーケットプレイスがImmutable X上に移行したほか、Stepico Gamesが開発しImmutableが公開したGuild of GuardiansなどいくつかのゲームがImmutale Xを利用しているようです。My Crypto Heroesを開発する日本のdouble jump.tokyoもImmutable Xとパートナーシップを締結したことを発表しました。
画像: Immutable Xのエコシステム(Immutable Xのウェブサイトより)
上の図に名前のあるプロジェクト以外では、TikTokのNFT、TikTok Top MomentsもImmutable Xを使って販売され、取引されています。
TikTok launches first creator-led NFT collection | TikTok Newsroom
Immutable Xを実際に使っているプロジェクトはまだ多くはありませんが、大手サービスとのパートナーシップも発表されています。たとえば、2021年3月にはOpenSeaがImmutable Xに対応することを発表しています。OpenSeaの対応は2021年11月現在まだ実現していませんが、Immutable Xの最新のウェブサイトにOpenSeaのロゴが掲載されていることから、今後OpenSeaがImmutable Xに対応する可能性はありそうです。
画像: OpenSeaによるImmutable Xサポートの発表
DisneyやMarvel、Batman、Star Trekなど人気のNFTを扱うデジタルコレクティブルプラットフォームのVeVeもImmutable Xの利用を発表しています。
Immutable X Migration- Rollout Plan | by ECOMI | ECOMI | Sep, 2021 | Medium
また、興味深い動きとして、PolygonからImmutable Xに移行するゲームがあり、今後他のレイヤー2ネットワークやEthereum互換のサイドチェーンからImmutable Xへの移行が続く可能性があります。
Ember Sword Partners With Immutable X, Migrates from Polygon to Ethereum L2
おわりに
本記事ではEthereum NFTのためのレイヤー2ネットワークImmutable Xを取り上げました。さまざまなサイドチェーンやレイヤー2技術が登場し、NFTにも注目が集まる中で、Immutable Xは初のNFTに特化したレイヤー2ネットワークとして、実際にブロックチェーンゲームを開発するImmutableによってリリースされました。すでに大手サービスとのパートナーシップも発表され、今後OpenSeaとの連携やさらに多くのサービスによるImmutable Xの利用が期待されます。
今後Immutable XがNFTに特化して独自の立ち位置を築き、どのようにエコシステムを拡大していくのか注目したいところです。