Gitcoinとは
Gitcoinは2017年創業のアメリカ・コロラド州に拠点を置くスタートアップで、プロジェクトや開発者への助成を中心に公共的な意味を持つオープンウェブに関するプロジェクトをサポートするサービスを提供しています。
Build and Fund the Open Web Together | Gitcoin
GitcoinのCEOは創業者のひとりKevin Owocki氏で、共同創業者として2018年に加わったScott Moore氏がDeveloper Relation Leadを努めています。ふたりの共同創業者はブロックチェーン分野での経験が豊富で、GitcoinはOwocki氏の7つ目のブロックチェーン関連プロジェクトとのこと。2013年、2014年というブロックチェーンの黎明期にさまざまなブロックチェーンプロジェクトのアイディアを試行錯誤する中で、開発者が仕事を見つけ、プロジェクトが開発者を見つけられるプラットフォームに熱心になっていったといいます。2017年にEthereumの共同創業者であるJoseph Lubin氏と出会ったのが大きな転機となり、Owocki氏は自宅の地下室でGitcoinを創業しました。
Owocki氏がどのようにして起業家になったのか、ブロックチェーンの世界に入っていったのか、Gitcoinがプロジェクトとして成長していったのかについては以下のインタビュー動画で語られています。オープンウェブの支持者で開発者といったOwocki氏の風貌と言動に親しみを感じる人もいるのではないでしょうか。
Gitcoin with founder Kevin Owocki – YouTube
Gitcoinが提供するサービスには変遷があったものの、「オープンソースソフトウェアの開発者を支援する」というミッションはそのままにGitcoinは成長を続け、これまでにGitcoinのさまざまなサービスを通じて約26百万ドル(28億円以上)もの資金がプロジェクトや開発者に提供されました。資金の大部分はGitcoin Grantsと呼ばれる助成プログラムで提供されています。
画像: Gitcoinで提供された資金額の推移と内訳(Gitcoinウェブサイトより)
2019年2月の最初の助成金ラウンド(GR1: Gitcoin Grants Round 1)では44,000ドルの資金が集まり、四半期ごとの助成金ラウンドは回を重ね、2021年7月に終了したGR10で集まった資金は180万ドル(2億円弱)にのぼりました。Gitcoin Grantsは2021年9月8日から23日にかけてGR11を控えています。
※ 資金額や円換算金額は2021年8月本記事執筆時点のものです。
画像: Gitcoin Grantsで提供された資金額の推移(Gitcoinウェブサイトより)
2021年5月にはGitcoinのガバナンストークンGTCが発表され、Gitcoinの初期のユーザーにGTCがエアドロップされ、分散化が進められています。
Gitcoinというと、資金調達のためのプラットフォームをイメージする人もいるかもしれませんが、Gitcoin Grantsのほかにもオープンウェブプロジェクトをサポートするプラットフォームとして以下のようなサービスを提供しています:
- バウンティープログラム
- ハッカソン
- Web3について学んで報酬を得られるQuest
- NFTを送りあって感謝を表すKudos
- アクセレレータプログラムKernel
日本の組織やグループによるGitcoin Grantsの利用も見られます。たとえば、日本円にペグされたステーブルコインのJPYCや、DeFi(分散型金融)の仕組みを有識者がわかりやすく解説するやさしいDeFiがGitcoin Grantsを利用して資金を集めています。
Quadratic Funding
Gitcoinは民主的に公共的なオープンウェブプロジェクトに資金を割り当てようとしています。Quadratic Funding(クアドラティックファンディング)は、Gitcoin Grantsで民主的に資金を割り当てる上で肝になる考え方です。QFと略称で呼ばれることもあります。
Quadratic Fundingは、Ethereumを考案したVitalik Buterin 氏、ハーバード大学のZoë Hitzig氏、マイクロソフトリサーチのE. Glen Weyl氏が共著論文で発表した公共財への資金配分手法です。Quadratic Fundingは、一人一票方式ではなく投票者が投票対象に重み付けできるQuadratic Votingに着想を得ています。
A Flexible Design for Funding Public Goods
Gitcoin Grantsでは、プロジェクトは個人からの寄付のほかに、四半期ごとに開催される資金調達イベント(Gitcoin Grants Round)でマッチングプールと呼ばれるGitcoin公式の資金プールからも資金提供を受けられます。
プロジェクトが受け取るお金 = 個人からの寄付 + マッチングプールからの割り当て
マッチングプールの資金はQuadratic Fundingで各プロジェクトに割り当てられます。Quadratic Fundingでの資金の割り当てでは、まずプロジェクトに対する個々の寄附金の平方根(ルート)をとって足し合わせ、この二乗を計算します。この値はいわばプロジェクトの価値を表す値で、これに比例してマッチングプールの資金を各プロジェクトに配分します。このように資金を配分すると、寄付の金額よりも、寄付をしている人の数を重視して資金を配分できます。
Quadratic Fundingを直観的に説明したウェブサイトWTF is Quadratic Funding?のシミュレータで実際に数値を入力して結果を見てみるとわかりやすいです。
画像: WTF is Quadratic Funding?の資金配分シミュレータ
上の例ではマッチングプールに$1000ドルの資金があります。Grant #1は1人から4ドルを、Grant #2は4人から1ドルずつ合計4ドルの寄付を受け取りました。マッチングプールの資金を配分する計算プロセスを見てみましょう:
- Grant #1: $4.00の平方根は2、その2乗は4
- Grant #2: $1の平方根を4回足し合わせて、2乗すると16
- マッチングプールの資金$1000をGrant #1とGrant#2に4:16、つまり1:4で配分
- Grant #1は$200、Grant #2は$800をマッチングプールから受け取る。
Grant #1とGrant #2が個人から受け取った合計金額は同じですが、マッチングプールからの資金配分はより多くの人から寄付を集めたGrant #2の方が大きくなります。
Quadratic Fundingにも問題がないわけではありません。悪意のある主体がたくさんのアカウントを作って小口の寄付が集まっているように見せかけると、マッチングプールから多額の資金を得ることができます。このようなシビルアタックのリスクはGitcoinも認識していて、アカウントを分散型IDサービスや広く普及しているTwitterやFacebookというった中央集権型のサービスで認証することにインセンティブを与えています。
Gitcoin Grantsを使ってみよう
こうして見てみると、オープンソースソフトウェアという限られた分野ではありますが、将来的に実現されるかもしれない民主的な参加型の分散型社会にわくわくしてきたという人もいるのではないでしょうか。筆者もその一人で、せっかくなのでGitcoinのマッチングプールに寄付をしてみることにしました。
Gitcoin Grants Official Matching Pool Fund | Grants | Gitcoin
Gitcoinを使うには、ソースコードホスティングサービスGithubのアカウントが必要です。アカウントの作成は簡単にできるので、Gitcoinにだけ興味があるという人もアカウントを作ってみるとよいでしょう。GitcoinにアカウントができたらMetaMaskなどのウォレットを接続します。
続いて寄付をしたいプロジェクトのページで「Add to Cart」をクリックして、寄付したい通貨と寄付する単位を入力します。寄付する通貨は、ETHはもちろん、ステーブルコインを含め数多くのERC20トークンの中から選べます。「Checkout」をクリックすると、MetaMaskが立ち上がり、通常の送金処理のようにガス代と送金金額を確認してトランザクションを送ります。しばらくすると、寄付が完了し、感謝のメッセージが表示されます。
画像: 寄付完了後のメッセージ
Gitcoinで寄付をするには、仮想通貨やウォレットを使うハードルはあるものの、Gitcoin上で資金を求めているプロジェクトをサポートしたいと思う人は、すでに仮想通貨の取り扱いに慣れていると考えられるので、この点は初期段階では大きな障壁にはならないでしょう。
Gitcoinではさまざまなトークンがサポートされているので、DeFiでたまったトークンやエアドロップでもらったトークンなど費用をかけずに手に入れたトークンや、ウォレットに残っている端数を気軽に寄付できそうです。少なくとも筆者は、従来のクラウドファンディングプラットフォームで財布からクレジットカードを出して寄付するよりも心理的な障壁が少ないと感じました。
ただ、ガス代の問題は今後解決されなければなりません。筆者が寄付を試みたときには時間帯によって7~25ドルほどのガス代が提示され、最終的に7ドルのガス代でトランザクションを通しました。少額を投げ銭的に寄付するには手数料が高すぎるのが残念です。
寄付をする側としてGitcoin Grantsを使ってみましたが、寄付を受ける側としてGitcoin Grantsを使ってみたい場合は、以下のページで「Start a Grant」をクリックすると簡単なガイドとGrant作成フォームへのリンクが表示されます。
Gitcoinの今後
現状のGitcoinのサービスはスマートコントラクトなどを利用するしつつも、一元的にホストされているWeb 2.5の状態ですが、Gitcoinは2021年5月にガバナンストークンGTCをリリースし、ガバナンスをコミュニティーにゆだねる分散化の道を歩みはじめました。
Gitcoinの分散化はGitcoin Grantsから着手され、GTCのリリースとともにGitcoin DAOが作られました。コミュニティーメンバーからデリゲートを受けたスチュワードと呼ばれるメンバーを中心にGitcoin Grantsは運営されることになります。GitcoinはGitcoin Grantsをオープンソースのプロトコルにすることも目指しているようです。
Gitcoin Grantsの分散化や、分散化と密接に関わるスチュワード、GTCについてはGitcoinのブログに詳しい説明があります。
- Decentralizing Gitcoin Grants
- Introducing the Community Stewards Program
- Introducing GTC – Gitcoin’s Governance Token
Gitcoin Grantsから始まる分散化では、権限がDAOに移譲されていくため、最終的なGitcoinのあり方はDAOの決定に依存することになりますが、Gitcoin全体として中長期的にはデジタルインフラを作り出す分散型で民主的なコミュニティとなると想定され、この仮想的なコミュニティは「Quadratic Lands」と呼ばれています。Quadratic Landsの構想やロードマップについては以下のページに説明があります。
おわりに
本記事では民主的にオープンウェブプロジェクトをサポートしようとするGitcoinについて説明しました。
これまでオープンウェブの恩恵にあずかりつつも、どのように感謝の気持ちを伝えてよいかわからなかった開発者やエンドユーザーは少なくないはずです。筆者もその一人で、Wikipediaに少額を寄付したことがありますが、寄付はしたもののコミュニティーとのつながりを強く感じることはなく、それっきりになっていました。
Gitcoinにも課題がないわけではありませんが、Gitcoinを通じて寄付をしてみると、オープンウェブの未来に貢献し、新しい民主主義を体現しようとする分散型社会の一員になれたようなわくわくする気持ちになり、寄付だけでなく、QuestなどGitcoinのほかのサービスも使ってみたいと感じました。
今後DeFiやゲーム、NFTに牽引される形で仮想通貨やブロックチェーンが社会に浸透する中で、Gitcoinがオープンソースソフトウェアという公共財を持続可能に開発するための新しい仕組みを築いていくことに期待したいです。