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Drivechain

2023年の夏の終わりから、ビットコインのサイドチェーン「ドライブチェーン」についての議論がTwitterで盛り上がっています。ドライブチェーンはまだ提案の段階で、実現には至っていません。本記事では、古くて新しいドライブチェーンとは何なのか、どのようなメリットと懸念点があるのか見てみましょう。

 

ドライブチェーンとは

2023年8月にTwitter上で、ビットコインの機能を拡張する「ドライブチェーン」についての議論が盛り上がり始めました。ビットコインのサイドチェーンで、現在は提案段階にあります。

ビットコインのサイドチェーンとしてすでに稼働しているものとして、BlockstreamのLiquid NetworkRSK LabsのRSKなどがあります。Liquid Networkは取引所や機関・個人投資家を対象に高速かつ機密性の高い取引を実現することを、RSKはEthereum互換のスマートコントラクトをサポートすることをそれぞれ目的としています。一方、ドライブチェーンについては、Liquid NetworkやRSKのような特定のサイドチェーンではなく、さまざまなサイドチェーンをビットコインに追加するための仕様ととらえるとよいでしょう。

ドライブチェーンでは、スマートコントラクトを実行できるようにしたり、通貨を発行したり、あらゆる実験ができます。ドライブチェーンへの価値の移転は、ビットコインブロックチェーン上でビットコインをロックして行います。ドライブチェーンのマイニングは、ビットコインのマイナーがビットコインのマイニングと同時に行える(マージマイニング)ため、マイナーは手数料の増加を期待でき、ドライブチェーンはビットコインのセキュリティの恩恵を受けられるといわれています。

理論上、すべてのブロックチェーンがビットコインのサイドチェーンであるドライブチェーンで実現でき、アルトコインのブロックチェーンとそのマイナーが必要なくなることから、ドライブチェーンはアルトコインキラーと呼ばれることもあります。

Drivechainを提唱しているのは、LayerTwo LabsのCEOのPaul Sztorc(ポール・ストーク)氏らです。

Sztorc氏はCryptAxeという共同提案者と2017年に「ハッシュレートエスクロー」というタイトルのBIP300で、ビットコインブロックチェーンからドライブチェーンへの資金の払い出し方式をはじめ、ビットコインブロックチェーンとドライブチェーンとの間のインタラクション方法について提案しました。続いて2019年に「ブラインドマージマイニング」というタイトルのBIP301でメインチェーンであるビットコインブロックチェーンのセキュリティモデルのもとでサイドチェーンのブロックをマイニングするマージマイニングの一手法を提案しました。この二つのBIPによってドライブチェーンの仕様が定義され、これに基づいてLayerTwo Labsはドライブチェーンの実装を進めています。
(BIP: Bitcoin Improvement Proposal、詳しくは本ブログの記事「ビットコインシステムを議論するためのドキュメント、BIP」を参照してください。)

ドライブチェーンはビットコインのソフトフォークで実現されますが、ことビットコインに限っては、ソフトフォークでさえ頻繁に起こるものではなく、提案から数年の時を経ても議論が続いています。

今なぜドライブチェーンについて議論が再燃したのかについては、2022年末にLayerTwo Labsが300万ドル(2023年9月執筆時点のレートで4億5千万円弱)の投資を受けたことや、2023年8月にビットコインコアの開発者がドライブチェーンのコードを書き直したことなどが背景にあるようです。暗号通貨メディアCointelegraphに、今回の議論の発端や関係者の意見をまとめた記事があります。

BIP-300 biff: Debate reignites over years-old Bitcoin Drivechain proposal

続いてドライブチェーンのしくみを見てみましょう。

 

ドライブチェーンのしくみ

はじめにドライブチェーンとビットコインの関係を見てみましょう。ベースレイヤーとなるビットコインを中心に、サイドチェーンであるドライブチェーンが無数に存在するイメージです。

画像: ビットコインとドライブチェーン
Paul Sztorc氏のYouTubeチャンネルの解説動画より)

ドライブチェーンに資産を転送するには、ビットコインを特定のアドレスに送金し、ロックします。ロックされたビットコインは、トークンといった資産としてドライブチェーンに「ペグイン」されます。一定のビットコインをロックするため、ドライブチェーン上の資産の価値は有限で、無限に増やすようなことはできません。

ユーザーはドライブチェーン上で、ペグインした資産を自由に取引したり使用したりできます。ドライブチェーン上でのトランザクションは、ビットコインのマイナーによって、ビットコインのトランザクションと合わせて処理されます。BIP301で提案されたブラインドマージマイニングという仕組みで、ビットコインのマイナーはドライブチェーンの詳細や状態を具体的に知らなくても、ドライブチェーンのブロックをマイニングできます。マージマイニングによって、ビットコインのマイナーは手数料収入が増える可能性があり、ドライブチェーンのブロックをマイニングするインセンティブになるといわれています。

ユーザーはドライブチェーンでの取引が終了したら、資産をビットコインブロックチェーンに「ペグアウト」します。ペグアウトすると、最初にロックしたビットコインが戻ってきます。

ペグインは通常のビットコインの送金とほとんど同じで比較的単純な処理ですが、ペグアウトはドライブチェーンの状態にも依存し、また、悪意のあるユーザーの攻撃を防ぐためにも、注意深く実行される必要があり、ドライブチェーンからのペグアウトには独特の仕組みが提案されています。

ドライブチェーンからビットコインブロックチェーンへのすべての引き出しリクエストは一つのハッシュにまとめられます。悪意のある攻撃者が正しくないハッシュを作成するかもしれません。ドライブチェーンではマイナーの投票が10分ごとに数ヶ月にわたって行われ、都度各ハッシュのACKスコアが加減算され、13,150ACKスコア(13150 x 10分 / 60分 / 24時間 = 約91.3日、3ヶ月)に至ると正しいハッシュとみなされて引き出しが完了します。長期間にわたるペグアウトプロセスによって、悪意のある攻撃を排除して、ビットコインブロックチェーンに資産を戻せるとされています。

画像: ドライブチェーンから資金を引き出す際の投票の様子
Paul Sztorc氏のYouTubeチャンネルの解説動画より)

このようにドライブチェーンでは、数ヶ月にわたってマイナーは資産の扱いに賛成または反対票を投じ、全体としてハッシュレート(マイニングの速度、マイナーの計算力)で「署名」しているかのように振る舞うため、この仕組みはハッシュレートエスクローと呼ばれています。

 

ドライブチェーンのメリットと懸念点

ここでは改めてドライブチェーンのメリットとデメリットを整理してみましょう。

メリット

ドライブチェーンにはさまざまなメリットがありますが、ビットコインのマイナーのハッシュパワー(計算力)を使える可能性がある点は大きなメリットといえます。マイナーは、マージマイニングによって、ビットコインをマイニングしながらドライブチェーンのマイニングもできるため、手数料収入の増加を期待できます。

ドライブチェーンの提案者であるSztorc氏は、ドライブチェーンとブロックサイズ論争の副作用に関するインタビューの中で、かつてビットコインの猛烈な支持者で、ブロックサイズ論争でビットコインキャッシュに転向したRoger Ver氏や、Bitcoin Magazineのライターでありファウンダーで、ブロックチェーン上でプログラムを実行できるようにするべくEthereumを考案したVitalik Buterin氏はもともとビットコイナーで、Zcashのようにビットコインから派生した優良なプロジェクトもあることにふれ、ビットコインから離れざるを得なかったプロジェクトがあるとしています。論争に勝った現在のビットコインの側にも、現状をかたくなに守ろうとする問題が残ったといいます。このような状況を踏まえると、過剰な論争を避け、気軽にブロックサイズを大きくしてみたり、スクリプトを実行できるようにしてみたり、ベースのビットコインブロックチェーンに影響を与えずに実験ができる場として、サイドチェーンには可能性があるといえそうです。

懸念点

ドライブチェーンからビットコインブロックチェーンに資産を引き出すには、3-6ヶ月かかるといわれています。セキュリティのためとはいえ、瞬時に処理が完了するインターネットに慣れていると、気が遠くなるほど長いと感じるかもしれません。ドライブチェーンのFAQによると、暗号通貨取引所などの専門の組織がドライブチェーンからBIP300で定義された方法で資産を引き出し、一般のユーザーは取引所に手数料を支払って、即引き出しを完了できるとあります。

ハッシュレートの51%が悪意のあるマイナーによって支配される51%攻撃を指摘する声もありますが、ビットコインのマイナーがドライブチェーンのマイニングもしているため、すべてのマイナーが特定のドライブチェーンを避けることなくマイニングしているのであれば、ビットコインにおける51%攻撃のリスクがドライブチェーンにも適用されます。しかし、ビットコインに対する51%攻撃は高コストであり、現実的ではないでしょう。

一部のマイナーがドライブチェーンのマイニングをしている場合はどうでしょう。悪意のあるマイナーが51%以上のハッシュレートを持つ場合、取引の承認や引き出しで不正を働くことが理論的には可能ですが、ドライブチェーンからの引き出しには数ヶ月を要するため、この間に潜在的な攻撃を検出し、対処できる可能性があります。

技術・経済的な懸念のほか、ビットコイナーの中には「詐欺プロジェクトがドライブチェーンでビットコインと関わりを持つことで規制当局や一般の人々が「ビットコインは詐欺だらけ」と勘違いするのでは」と懸念する声もあります。

 

ドライブチェーンの今後

ドライブチェーンに関する提案BIP300、301のステータスは現在最初の段階の「draft」(草稿)の状態で、今後ドライブチェーンがビットコインで受け入れられ、実現するのかは、マイナーや開発者、ユーザーを含むコミュニティ次第で、BIP300で必要なソフトフォークではマイナーによるアクティベートも欠かせません。

大手暗号通貨取引所Bitfinexのブログ記事「Drivechains as an alternative to Altcoins」では、ドライブチェーンの潜在能力に触れつつ、Taprootのソフトフォークで可能になったOrdinal(ビットコインの最小単位サトシにナンバリングしNFTのように使える仕組み)は物議をかもしていて、ビットコインに早急にドライブチェーンが採用・実装される可能性は低いとしています。

Despite the potential for drivechains, with the current controversy surrounding Ordinals and Inscriptions, which leveraged some of the new capabilities provided by the recent Taproot soft fork’s Taproot spend scripts, it’s unlikely that we will see Bitcoiners rush to adopt a new soft fork, to implement drivechains in Bitcoin anytime soon.

このような中、ビットコインコアの開発者がドライブチェーンのコードを書き直したり、ソフトフォークをともなわずにBIP300を実現することができるという発言が出てきたりするなど、コミュニティにはドライブチェーンに対する一定の関心があります。

 

おわりに

本記事では、暗号通貨の勢力図を大きく変える可能性のあるドライブチェーンについて説明しました。よい意味で、慎重で議論に時間のかかるビットコインコミュニティーでは、ドライブチェーンが実現されるにしても、すぐのことではない可能性が高いでしょう。

少額の送金についてはライトニングがソリューションとして定着しつつありますが、ビットコインのネットワークの恩恵を受けながらより柔軟な処理やスケーラビリティを求めるのであればドライブチェーンのようなオフチェーンソリューションが選択肢の一つとなるでしょう。また、特にドライブチェーンではマージマイニングが可能であることから、経済合理性のもとビットコインエコシステムで活動するマイナーの意思や動向も無視できません。

サイドチェーンやレイヤー2、スケーラビリティソリューションというと、Ethereumまわりの話題が多いですが、ビットコインにもこのような議論があることを知って、今後の動向に注目したいところです。

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

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