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オラクルとは

Chainlinkそのものの解説に入る前に、オラクルとはなにか、なぜオラクルが必要なのかから説明します。

「オラクル」(oracle)は「信託」「預言者」という意味の語で、ブロックチェーンや仮想通貨分野では、ブロックチェーンの外の情報をブロックチェーンに提供するサービスをオラクルと呼びます。2020年の夏に注目を集め始めたDeFi(Decentralized Finance、ディーファイ)の文脈でオラクルについて聞いたことがあるという人もいるかもしれません。本記事で解説するChainlinkもブロックチェーンの外の情報をブロックチェーンに提供するオラクルサービスの一つです。

なぜオラクルが必要になるのでしょうか。仮想通貨の取引価格を例に考えてみましょう。APIで単純に単一の仮想通貨取引所の価格を取得するなどすると、大口の取引や恣意的な価格操作で、価格が大きく上振れまたは下振れする可能性があります。レンディングサービスなどで参照価格にこのような変動があると、運悪く精算されてしまう人、首尾よく利益を上げる人が出てくるため、サービス側ではこのような値を参照するのは避けたいところです。また、取得したデータが改竄されている可能性もゼロではありません。各所から価格情報を集めて自前のオラクルを作ることも考えられ、実際に自前のオラクルを持っているサービスもありますが、手間や改竄のリスクなどを考えると、多くの分散型アプリケーションではオラクルサービスを利用するのが現実的です。

ChainlinkはDeFiに関連するサービスとして分類されることもあり、オラクルと聞くと、仮想通貨を含む金融関連の情報を提供するサービスをイメージする人もいるかもしれませんが、オラクルが扱うデータは多岐に渡ります。オラクルは金融関連情報だけでなく気象、スポーツの結果、IoTセンサからのデータ、その他あらゆる実世界のデータをブロックチェーン上で利用可能にします。

次項以降ではオラクルの一つChainlinkについて説明しますが、オラクル一般について詳しくはDeFiに関するトピックをわかりやすく解説しているYouTubeチャンネル、やさしいDeFiの動画「やさしいDeFi: オラクルを初心者でも完全理解」が参考になります。

やさしいDeFi: オラクルを初心者でも完全理解 – YouTube

 

Chainlinkとは

企業情報データベースCrunchbaseによると、Chainlinkは2014年1月にイギリスの領土でタックスヘイブンとしても知られているケイマン諸島のグランドケイマンに創業されました。共同創業者でCEOのSergey Nazarov氏はブロックチェーンベースのメールサービスCryptaMail、スマートコントラクトと外部データや銀行決済システムに接続するプラットフォームSmartContractを設立したブロックチェーン分野のシリアルアントレプレナーです。

Chainlinkは2017年9月に最初のホワイトペーパーを公開し、同月に実施したICOで32百万ドル(2021年7月末のレートで35億円強)もの資金を調達しました。ChainlinkではERC20を継承したERC677に基づくトークンLINKが使われます。LINKは、発行当初は1LINKが17セントほどで取引されていました。2020年夏にDeFiに注目が集まるとLINKは一気に価格を上げ、2021年5月には52ドルを超えました。2021年7月末現在20ドル弱で取引されています。DeFi銘柄として注目を集めたChainlinkとLINKですが、2017年の仮想通貨バブルの前から構想が練られてきた歴史のあるプロジェクトといってよいでしょう。

画像: LINKの価格推移(CoinMarketCapより)

Chainlinkは分散型オラクルで、ブロックチェーン内外をつなぐミドルウェアとして機能し、ブロックチェーン外のデータをブロックチェーン上で、また、ブロックチェーン上のデータを外部から利用可能にします。Chainlinkによるといかなるブロックチェーンも扱えるといいます。

画像: Chainlinkの概要(動画「What is Chainlink? A Two-Minute Explainer」より)

Chainlinkのウェブサイトでは、さまざまな仮想通貨の対米ドルの価格データフィードが公開されています。個別の仮想通貨について、詳細を表示すると、オラクルノードや価格推移などを見ることができます。

Decentralized Price Reference Data | Chainlink

画像: Chainlinkが提供するBTC/USDの価格フィード

Chainlinkはブロックチェーン内外のデータのやりとりを橋渡しするほかにも、乱数の生成、企業や政府向けのソリューションの提供もしています。

続いてChainlinkがどのように動作しているのか見てみましょう。

 

Chainlinkの仕組み

まずChainlinkのネットワークを作るコンポーネントを概観しておくと、全体像を把握しやすくなります。Chainlink ネットワーク(下図緑枠内)は、さまざまなデータを提供するオラクルネットワーク(下図青枠内)の集まりです。オラクルネットワークは、オラクルとも呼ばれるChainlinkノード(以下ノード)によって構成されます。

画像: Chainlinkのネットワーク
(Chainlinkのブログ記事「What Is a Chainlink Node Operator?」より)

ノードは、外部のデータソースからデータを購入する、または、自前のデータソースからデータを取得しデータを提供します。

Chainlinkが提供している価格フィードを例に見てみましょう。価格フィードの価格算出の元になるデータは中央集権型の取引所やオンチェーンの分散型取引所の価格がもとになっています。プレミアムデータアグリゲータと呼ばれるアグリゲータが取引所から取得した価格をまとめ、個々のノードがそれぞれデータを取得し、中央値を算出します。その後、オラクルネットワーク全体で、一定数のノードの応答の中央値を算出し、最終的な価格データが決定します。価格フィードの仕組みについて詳しくはChainlinkのブログ記事「Data Quality for DeFi Smart Contracts」と「The 3 Levels of Data Aggregation in Chainlink Price Feeds」が参考になります。

画像: 価格フィードを作成するオラクルネットワーク
(Chainlinkのブログ記事「Data Quality for DeFi Smart Contracts」より)

ノードは一意の公開鍵と秘密鍵を持っていて、データを提供する際には秘密鍵で署名します。ノードの実績は対応するブロックチェーン上に記録され、Chainlinkコミュニティーで作られたウェブサイトOracle Reputationで閲覧できます。

画像: Oracle Reputationのランキング

ノードは適切なデータを報告することでChainlinkのトークンLINKを報酬として受け取ります。一方、ノードは外れ値を報告したり、オフラインになったりすると、デポジットしたLINKが没収されます。このような評判と報酬システムによってノードには正直にデータを報告するインセンティブが働きます。

データをリクエストする側では、Chainlink Marketでノードの実績を参考にし、特定のノードを指定したり、閾値を設けてランダムに複数のノードの中からデータを取得するノードを選択したりできます。価格フィードについては、現在スポンサーがついていて利用は無料です。ノードやデータプロバイダの特定のJobを実行する場合にはLINKで対価を支払います。

画像: Chainlink MarketのJobのリスト

 

Chainlinkを利用しているサービス

Chainlinkはすでに多くのサービスで利用が進んでいます。Chainlinkは「77 Smart Contract Use Cases Enabled By Chainlink」というブログ記事の中でChainlinkの利用事例を紹介しています。

77 Smart Contract Use Cases Enabled by Chainlink

Chainlinkの名前を見聞きすることの多いDeFiをはじめとする金融分野での利用はもちろん、ゲーム分野への乱数提供、サプライチェーンや政府での利用事例についても触れています。

政府や政治に関する利用事例としては、2020年に行われたアメリカ大統領選挙の際にEveripediaのChainlink ノードがAP通信の投票に関するデータを配信し、ブロックチェーンにデータを記録するだけでなく、スマートコントラクトから大統領選のデータを利用可能にしました。また、2020年には中国の国家ブロックチェーン(BSN、Blockchain Service Network)への参画も発表され注目を集めました。

画像: 中国のBSNによるツイート

 

今後の展開 − Chainlink 2.0

2021年4月、Chainlinkは新たなるビジョンを記したホワイトペーパーを公開しました。

Chainlink 2.0: Next Steps in the Evolution of Decentralized Oracle Networks

現状、Chainlinkでは、選ばれたノードがネットワークを組織して仮想通貨の価格フィードを提供したり、個々のノードがオラクルとしてジョブを実行したりしていますが、Chainlink 2.0では、分散型のオラクルのネットワークの役割が重視され、データ配信を超えたサービスを提供する計画です。

Chainlink 2.0のホワイトペーパーではDecentralized Oracle Network(DON)という概念を中心にChainlink 2.0のビジョンが説明されています。DONはコミッティー(委員会)と呼ばれるChainlinkノードの集団よってメンテナンスされるネットワークで、コミッティーが選択したあらゆるオラクル機能をサポートすることになるといいます。DONはコミッティーベースですが、ホワイトペーパーによると、ノード同士が自由に独自の体制のオラクルネットワークを構築できることから、本質的にはパーミッションレスであるとしています。DONの導入により、オフチェーンとオンチェーンを扱うハイブリッドスマートコントラクトを実現できるようになり、プロトコルやシステム間の複雑さが抽象化されます。また、スケーリングや機密保持の面でのメリットも期待できるようです。

 

おわりに

本記事ではスマートコントラクトにオフチェーンのデータを提供する分散型オラクルChainlinkについて説明しました。Chainlinkはオラクルの代表格で、名前はよく見聞きするものの、具体的には何をしているのか、どのような仕組みで動いているのかよく知らなかったという人もいたのではないでしょうか。多額の資産が動く金融分野や重要な決定が行われる政治分野では、正確なデータを提供するオラクルの存在は不可欠です。

Chainlinkはデータ配信を超えて、Chainlink 2.0への道のりを歩み始めようとしています。今後Chainlinkがどのように分散型のオラクルネットワークを実現し、利用を広げていくのか注目したいところです。

 

Edited by Yosuke Aramaki

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

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