ブロックチェーンプラットフォームCardanoは、有名な開発者によるプロジェクトで、数年にわたって時価総額ランキングの上位にランクインしています。一方でさまざまな憶測が出た時期もありました。2015年から開発が始まり、古くから存在するCardanoですが、詳細はあまり知られていないのではないでしょうか。本記事ではCardanoがどのようなプロジェクトなのか、どのようなエコシステムを持っているのか解説します。
Cardanoとは
Cardano(カルダノ)とは、Charles Hoskinson氏とJeremy Wood氏が2015年に創業したIOHKが開発を主導するオープンソースのブロックチェーンプラットフォームです。Charles Hoskinson氏は、Ethereumの初期の開発に携わったことでも知られています。Cardanoの運用・展開はスイスに拠点を置く非営利団体Cardano Foundationが行っています。
Cardanoは、2015年にトークンセールを行って6,200万ドル(2023年1月時点のレートで約82億円)という巨額の資金を集めました。トークンセールは主に日本の投資家をターゲットに行われ、マルチ商法的な勧誘手法に疑問の声もあがりました。当時どのように資金集めが行われたのかについては、以下の記事に詳しい記述があります(記事中に説明があるものの、タイトルの「日本発」という部分にはやや語弊があります)。
日本発の仮想通貨「カルダノエイダ」の光と影 | 金融業界 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
2021年の夏にはCardanoでスマートコントラクトが使えるようになり、折しもPolygonやSolanaをはじめとするEthereumキラーと呼ばれるブロックチェーンが台頭した時期で、Cardanoも注目を集め、この時期にCardanoのトークンADA(エイダ)の価格はピークをつけました。
画像: ADAの価格推移(CoinMarketCapより)
Cardanoは2015年に構想がうちたてられた古いブロックチェーンで、CoinPostの記事「2015〜2020年、仮想通貨「時価総額TOP20」の顔ぶれと変化」では2017年以降は常連としてランクインしています。2023年1月現在の時価総額はCoinMarketCapのランキングで8位につけ、昨今さまざまなユースケースが出てきているPolygonを上回っています。
画像: 暗号通貨の時価総額ランキングトップ10(CoinMarketCapより)
一方、CoinMarketCapのTVLランキングではCardanoは33位とふるわず、Cardano上のプロトコル数は23と他のブロックチェーンと比べて多くはありません。
画像: ブロックチェーンのTVLランキング(CoinMarketCapより)
DefiLlamaでブロックチェーンごとのDeFiプロトコルのTVLランキングを見てみると、Cardanoは28位、プロトコル数は16で、DeFiに限っても特に優位性があるわけではありません。スマートコントラクトが利用できるようになって1年以上が経過していることを考慮すると、スマートコントラクトチェーンとして大きな成功をおさめているとは言えません。
また、興味深い傾向として、CoinMarketCap同様に暗号通貨の情報を提供するCoinGeckoの日本の人気コインランキングにADAがランクインしているのをしばしば見かけます。CoinGeckoの世界の人気コインランキングではこの傾向は見られません。IOHKのウェブサイトやCardanoエクスプローラには日本語のメニューもあります。日本ではトークンセール時からの根強い支持があるのかもしれません。
このように独特の存在感をはなちながら、長期間にわたってランキングに入り続けるCardanoとADAですが、どのようなしくみで機能しているのでしょうか。続いてCardanoのしくみを見てみましょう。
Cardanoのしくみ
CardanoではOuroboros(ウロボロス)と呼ばれる、査読済みの研究に基づく独自のPoSアルゴリズムで合意形成が行われます。CardanoのウェブサイトのOuroborosについて説明したページによると、OuroborosはわずかなエネルギーコストでPoWのセキュリティを提供するとしています。
Ethereumがthe MergeでPoS化し、さまざまなPoSブロックチェーンが存在する今でこそ珍しいものではありませんが、Cardanoはブロックチェーンの黎明期から、PoWで堅牢なBitcoinと、スマートコントラクトを実行できるEthereumの両方の長所のいいところどりを目指そうとしていたのです。
Cardanoでは、ADAをステークしたバリデーターの中からランダムにリーダーが選ばれ、ブロックを作成します。バリデーターはリーダーが作成したブロックを検証し、ブロックチェーンにブロックが追加されます。バリデーターおよび、バリデーターにADAをデリゲートした人は報酬としてADAを受け取ります。
この基本となるOuroborosの仕組み対して、ビザンチン将軍問題への耐性、セキュリティとスケーラビリティ面でのアップデートなどが随時加えられ、Cardanoは進化を続けてきました。Ouroborosの進化の歴史についてはIOHKのブログに解説記事があります。
ClassicからChronosへ:Ouroboros実装を解説 – IOHK ブログ
2022年9月にはブロック伝搬時間の改善などを目的にハードフォークVasilが実行され、今後の性能向上が期待されます。Cardanoの性能向上については、レイヤー2ソリューションHydraの開発も進められています。
CardanoのGitHubでCardanoチーム自身が書いているようにCardanoのドキュメントはそこまで詳細ではありません。Cardanoは学術分野での活動を特徴として打ち出していて、より詳しい仕組みを知りたいという人はCardanoのメンバーによる論文を当たるのがよさそうですが、Cardanoの概要については以下の文書が参考になります。
Cardanoのエコシステム
CardanoCubeというウェブサイトでは、Cardanoに関連するアプリケーションがリストアップされています。多くのアプリケーションがあるように見えますが、この中にはCardano上で動く分散型アプリケーションのほかに、ウォレットやツールなども含まれています。
Cardano Ecosystem Map (Interactive) – CardanoCube.io
2022年12月16日に公開された開発レポートによると、Cardanoでローンチしたプロジェクトの数は111とあります。CoinMarketCapが公開しているCardanoのプロトコル数は23で、DeFiに限ったDefiLlamaのデータは16と乖離があります。
DefiLlamaでどのようなアプリケーションがCardano上で動いているのか見てみると、分散型取引所のMinswapのTVLとユーザー数が他のアプリケーションと比べて多いことがわかります。ただし、TVLは2700万ドルほどで、有名なDeFiプロトコルと比べると格段に小さな値です。さらに、DefiLlamaによるとMinswapはCardanoのDeFiプロトコルの総TVLの40%ほどを占めています。また、Cardano上のDeFiプロトコルはCardanoのみで動いているものがほとんどで、他のブロックチェーンプラットフォームから分散型アプリケーションを起点にユーザーの流入を誘うのは厳しいかもしれません。
画像: CardanoのTVL(DefiLlamaより)
このようにCardano上のプロトコル数は多くはなく、有名プロトコルが他のブロックチェーンからCardanoにも移植されているという段階ではありません。今後エコシステムが拡大していくのか、どのような分野のアプリケーションが増えるのか注目したいところです。
Cardanoの今後
Cardanoはウェブサイトでロードマップを公開しています。
Cardanoの開発段階は、基礎を構築するByron、分散化を進めるShelley、スマートコントラクトを実行可能にするGoguen、スケーリングに注力するBasho、ガバナンスを組み込むVoltaireの5期に分けられています。
画像: Cardanoの5段階の開発フェーズ(Cardanoのロードマップより)
2021年のAlonzoのリリースでCardanoではスマートコントラクトが実行可能になりました。明確に現在どの時期にあるかは言及されておらず、2022年にはVasilがリリースされ、レイヤー2ソリューションHydraの開発が進められるなど、Bashoへの移行期にあると言えそうです。
今後、ネットワークがスケールされるとともに、魅力的な分散型アプリケーションの誘致がネットワーク成長の鍵となるでしょう。
おわりに
本記事では、2015年から構想が始まり、長期にわたって日本を中心に一定の関心を集めているCardanoを紹介しました。
Ethereumの初期の開発に携わったCharles Hoskinson氏が立ち上げ、学術分野でも積極的に活動しているCardanoですが、初期のトークンセールにまつわるネガティブなイメージは現在でも語られることがあります。また、スマートコントラクトプラットフォームとして利用できるようになったのが比較的遅かったこともあってか、未だTVLのランキング上位のブロックチェーンと競い合うには至っていません。
今後Cardanoがネガティブなイメージを一新し、エコシステムを拡大できるのか、世界的なプラットフォームとなるのか注目したいところです。