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2020年6月、Facebookは新しい実験的なサービスとして、未来予測サービスForecastのクローズドβ版をリリースしました。本記事では、未来予測とは何かから始め、Forecastについて、今後の可能性も含めて解説します。

 

未来予測とは

一般に「未来予測」というと、未来に起きる事柄について予測するもので、誰が予測に参加するかは限定されませんが、インターネット上のサービスでは、サービスに参加する一般のユーザーの予測を集めて未来を予測するものが主流です。このような群衆の知恵は、集合知、集団知性などと呼ばれています。2000年代半ばに出版された『「みんなの意見」は案外正しい』(原題『The Wisdom of Crowds: Why the Many Are Smarter Than the Few and How Collective Wisdom Shapes Business, Economies, Societies and Nations』)で集合知について知ったという人もいるのではないでしょうか。

「みんなの意見」は案外正しい ジェームズ・スロウィッキー:文庫 | KADOKAWA

集合知の概念や集合知に関する研究は以前からありましたが、2000年代半ばはパソコンでインターネットが広く利用され始めた時期で、これまで聞こえなかった個人の意見や知識がインターネット上に集まり、専門家から得られる以上の知識が手に入れられるようになる中で、「みんなの意見が案外正しい」ことに注目が集まったのかもしれません。ただし「みんなの意見」は必ずしも正しいわけではありません。母集団の選択方法を間違うなどすると、予測に偏りが生じ、正しい結果が得られないことがあります。

2010年半ばになると、ブロックチェーンを使った未来予測サービスが出てきます。ブロックチェーンを利用した分散型の未来予測サービスは、トークンとの相性がよく、市場性も兼ね備えていることから分散型予測市場とも呼ばれます。古いものでは2014年創立のForecast FoundationのAugurがあります。

Augur – The World’s Most Accessible, No-Limit Betting Exchange

スマートコントラクトとして書かれたブロックチェーン上の分散型予測市場の強みは、予測が変更も改ざんもできないまま刻一刻と保存されていく点にあります。ユーザー視点では予測を的中させることで報酬を得られれば、予測をするモチベーションも上がることでしょう。Augurのほかには、一時期Gnosisも分散型予測市場の開発に力を入れていました。分散型予測市場は興味深い分野ではあるものの、そのギャンブル性や、物議をかもすトピックが扱われることから、仮想通貨に対する誤った認識も相まって、広く一般に使われるサービスにはなりませんでした。

この状態を変えるかと思われたのが、LINEの参入です。LINEは同社のトークンエコノミーの一部として、2018年に4CASTという分散型未来予測サービスを発表しました。4CASTのユーザーは、スポーツの試合結果などを予測し、予測が的中すると報酬としてLINEが発行するLINK Pointを受け取ります。β版には累計4000万人以上が参加しましたが、2019年5月の正式リリースからわずか数ヶ月でサービス終了が発表されました。4CASTの突然のサービス終了の理由は明らかになっていません。

そして2020年6月、未来予測の分野で新たにFacebookが名乗りを上げました。ここからはFacebookが発表した未来予測サービスForecastについて見ていきましょう。

 

Forecastとは

Facebookは2020年6月、NPE(New Product Experimentation: 新サービスの実験)チームのブログで未来予測サービスForecastを発表しました。同社はForecastを「ユーザーによる予測と群衆知のコミュニティー」と説明しています。

現在は招待制のβ版で、発表時のブログ記事には、まず保健・研究・学術関係者を招待して、新型コロナウィルスに関する予測をするとあります。予測に参加できるのはアメリカとカナダのユーザーのみですが、予測の進行状況は誰でもForecastのウェブサイトで見ることができます。Frecastのウェブサイトでは新型コロナウィルスに関するものや大統領選挙に関するものなどさまざまな予測がリストアップされています。一例として2020年7月7日現在もっとも参加者の多い予測「Will the US Presidential Election be fully or partially postponed?」(アメリカ大統領選挙は完全または部分的に延期されるか?)を見てみましょう。

画像: アメリカ大統領選挙に関する予測(Forecastウェブサイトより)

Forecast発表時のブログ記事にはユーザー向けのiOSアプリのスクリーンショットがあります。予測に参加するだけでなく、予測について議論したり、ユーザー同士フォローしあったりすることができ、的中した予測の数でのランキングもあるようです。

画像: iOSアプリのインターフェイス(Forecast発表時のブログ記事より)

機能的にもユーザーインターフェイス的にもとてもシンプルなサービスで、「なぜ今Facebookがこのようなサービスを?」と思った人もいるかもしれません。Facebookであれば5年前、10年前でも十分なユーザーを抱えていて、技術的にも問題なくForecastをリリースできたはずです。

ここで気になるのがFacebookが主導する仮想通貨「Libra」との関係です。Forecastでブロックチェーンが使われているかは定かではありませんが、LINEが4CASTで試みたように、ForecastとLibraを連携してポイントを付与する、ブロックチェーンベースの分散型予測市場として展開するといった方向性があり得るのではないでしょうか。

 

Forecastの可能性

ブロックチェーンを利用して予測市場を分散化する意義については冒頭で触れました。Forecastでブロックチェーン上に変更も改ざんもできない形で予測が残れば、透明性と信頼性の高いサービスになるでしょう。また、予測の貢献者に対して、スマートコントラクトでLibraを配分することも考えられます。

未来予測には十分かつ偏りのないユーザーが必要ですが、Facebookは世界最大のSNSです。FacebookのユーザーをForecastに導くことができれば、この課題はクリアできそうです。また、プロフィールとして登録されている年齢、居住地、職業といった属性は、予測に参加する人とをフィルタリングしたり、偏りがないことを担保したりする際に役立つでしょう。

2019年にFacebookがLibraの構想を発表すると、各国当局がLibraに対して懸念を示しました。アメリカではFacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏が下院公聴会に呼ばれ、その後もLibraに関する議論が続き、結局Libraは当初のグローバル通貨という構想から大きく方針を転換することになりました。Facebookが主導するだけにLibraへの風当たりは強くなりがちですが、これまでの議論を通じてLibraの方向性はかたまりつつあり、2020年4月には新しくホワイトペーパー v2が公開されました。

Libraの方向性がかたまる中で、今後ForecastがLibraの利用事例になる可能性は十分あります。

 

おわりに

先の見えない新型コロナウィルスの影響や、そのような中でのアメリカ大統領選の行方など、2020年は未来予測サービスや予測市場にとって大きなトピックに事欠かない一年になりそうです。このような時期にFacebookがForecastのクローズドβ版をリリースしたのは偶然ではないのかもしれません。また、分散型予測市場の老舗Augurは2020年7月に大規模なアップデートを予定しています。

「みんなの意見が案外正しい」ことに注目が集まってから約15年。主流となるオンラインサービスがなかなか出てこなかった未来予測の分野で、FacebookのForecastをきっかけに大きな動きがあるのか、さらに今後分散型のサービスの利用が進むのか目が離せません。

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。

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