2009年に誕生した仮想通貨の元祖であるビットコインが2020年5月に3回目の半減期を迎えようとしています。本記事では、ビットコインの半減期とは何なのか、過去2回の半減期はどのようだったものなのか、今回の半減期とその影響について解説します。
ビットコインの半減期とは?
半減期について説明する前に、ビットコインの仕組みをおさらいしておきましょう。ビットコインのブロックチェーンは、トランザクションと呼ばれる取引をまとめたブロックが鎖(チェーン)のようにつながってできています。ブロックを生成は、ナンス探しという計算パズルをいち早く解いたマイナーが行います。ブロック生成のタイミングで一定量のビットコインが新規発行されます。マイナーは報酬として、新規発行されたビットコインとユーザーが支払った送金手数料を手に入れます。マイナーは、電気代や設備投資に充てるため報酬として受け取ったビットコインの一部を売り、ビットコインが市場に供給されます。
※ ビットコインについて詳しくは本ブログの「世界初の分散型の仮想通貨ビットコイン」を参考にしてください。
法定通貨と異なり、ビットコインは中央集権的な組織が無制限に発行できるわけではありません。ビットコインにはインフレを抑える仕組みがプログラムされています。ビットコインの発行上限は2100万BTCで、ビットコインが新規発行されるのはブロック生成のタイミングのみです。ブロック生成時に新規発行されるビットコインの量は半減期ごとに半分になっていきます。半減期というと、通常、対象の量が半分になる時間の長さを表しますが、仮想通貨の文脈では「半減期が到来する」といったように半減する特定の時期を表すこともあります。ちなみに、半減期と表現するのは日本語だけで、英語では「halving」、2頭分するという言い方をします。
ビットコインの半減期はあらかじめ「21万ブロックごと」と定められています。ビットコインのブロック生成時間は10分になるように調整されるため、ビットコインの半減期は約4年(4年 x 365日 x 24時間 x 60分 / 10分 = 210,240 ブロック)になります。2009年1月にビットコインのネットワークがローンチした当時は、ブロックが生成される度に50BTCが新規発行されていました。これまでに2012年11月28日と2016年7月9日に半減期を迎え、2020年4月現在ブロック生成時に新規発行されるビットコインは12.5BTC(50BTC / 2 / 2)です。ブロックの生成状況からビットコインの3回目の半減期は2020年5月になるだろうと予想されています。今回の半減期を迎えるとブロック生成時に新規発行されるビットコインは6.25BTCになります。
一般的に半減期では、ビットコインの新規発行量が減少し供給量が減るため希少性が上がり、値上がりが期待される一方で、マイニング報酬(新規発行されるビットコイン+ユーザーが支払う手数料)の一部である新規発行ビットコインの量が半分になることから、採算割れをおこすマイナーが出てビットコインネットワークのセキュリティーリスクにつながると懸念する声もあります。
※ 半減期について詳しくは本ブログの「マイニングの報酬額を半減させるタイミング「半減期」」を参考にしてください。
続いてこれまで2回の半減期がどのようなものだったのか振り返ってみましょう。
これまでの半減期
ビットコインの最初の半減期は2012年11月に、2回目の半減期は2016年7月に到来しました。ビットコインの価格やマイナーが得る報酬、ビットコインネットワークのセキュリティーの指標となるハッシュレートといった観点からこれまでの半減期を見てみましょう。
まず、価格は過去2回の半減期の前後半年で下のチャートのように推移しました。1回目の半減期では半減期の前後数ヶ月では横ばいから微増で、その後価格は急騰しています。2回目の半減期では、半減期前に価格上昇への期待から価格が上昇していますが、半減期の前に価格を落としています。その後一定期間600ドル前後を推移し、約半年後の2017年年初には1000ドルを記録しました。
画像: 半減期前後半年の価格推移(Blockchain Explorerのデータを元に作成)
米ドル換算のマイナー報酬は半減期のあと一時的に減少していますが、ビットコイン価格が半減期の2倍になるより少し早いくらいのタイミングで半減期と同水準に戻っています。
画像: ビットコインのマイニング報酬の推移(Blockchain Explorerのデータを元に作成)
ビットコインネットワークのセキュリティーについてはどうでしょうか。マイナーの毎秒あたりの計算能力を表すハッシュレートの合計値を見てみましょう。半減期のあと、多少の落ち込みはあるものの増加傾向をたどっています。
画像: ビットコインの合計ハッシュレートの推移(Blockchain Explorerのデータを元に作成)
これまでの半減期では、短期的に価格が下落することはあっても、半年から1年といった中期的には半減期を理由に価格が大きく下落したり、セキュリティーが低下したりすることはありませんでした。過去2回だけを根拠に断言することはできませんが、1回目の半減期と比べ、2回目の半減期では価格、マイニング報酬、ハッシュレートともに半減期を境にした伸びは落ち着きを見せたことから、回を追うごとに半減期前後での盛り上がりは落ち着き、価格上昇やマイニング報酬の回復には時間がかかるようになるのかもしれません。
ただし、2020年の半減期は過去2回の半減期と大きく状況が異なります。2020年の半減期ではどう状況が異なり、どのような影響が考えられるのでしょうか。
2020年5月の半減期
過去2回の半減期では、半減期を迎える前の数ヶ月間、ビットコインの価格は上昇傾向にありました。2020年に入ってビットコイン価格は7000ドル強から10,000ドルを超えるまで上昇し、半減期前の価格上昇かという見方がありました。2020年3月に入って新型コロナウィルスの世界的な影響を受けて、10000ドルを超えていた価格は9000ドル近辺まで落ち込みました。一時9000ドル近辺で価格が下げ止まったことからビットコインの強さがささやかれましたが、その後、急激な価格下落に伴うロングポジション(買い)の強制決済もあいまって、3月7日から13日にかけてビットコインの価格は1週間で9000ドルから半値の4500ドルまで急落しました。また、半減期を期待した価格上昇が始まる前の2019年には、ビットコインの価格は5月から6月にかけて13000ドル近くまで上昇したものの、その後一時は7000ドルを切るまで下落し、停滞を続けていました。このように2020年の半減期は、長期的な上昇相場にない中、さらにCOVID-19という未曾有の危機が追い討ちをかる形で迎える半減期となり、過去2回の半減期と大きく状況が異なります。
画像: 2019年4月から2020年4月までの1年間のビットコインの価格推移
(CoinmarketCapより、赤字・赤枠は筆者追記)
ビットコインの価格が下落基調にある場合、マイナーの法定通貨建の収入は大きく減るため、再度価格が大きく下落するようなことがあれば、今回ばかりは半減期をきっかけに撤退するマイナーが多く出るかもしれません。マイナーが減って競争が減ると、ナンス探しの難易度が下がるため、誰もナンスを探せなくなってしまうということはありませんが、マイナーの勢力が偏ることで51%攻撃のリスクが高まり、ネットワークの安全性が損なわれかねません。
ただ、これは理論的な見方で、実際にはマイナーはすでに電力を長期契約をしているため、赤字でもしばらくはマイニングを続けるといった現実的な側面もあるようです。こういった点については、日本のビットコイナーの先駆けである東晃慈(Koji Higashi)氏が放送しているビットコイナー反省会で、Blockware SolutionsのレポートUnderstanding ビットコイン Market Participantsをもとに有識者と興味深い議論を展開しています。
ビットコイナー反省会「ビットコイン半減期とマイナーの動向」 – YouTube
COVID-19の影響で世界は混乱の只中にあり、ビットコインを含む仮想通貨の今後は未だ読めない状況ですが、ビットコインは3月の価格急落のあと緩やかに価格を戻しつつあり、本記事執筆中の4月中旬現在7000ドル前後を推移しています。この間取引量が減って流動性がなくなることはなく、ハッシュレートは一時的に落ち込んだものの、2020年4月中旬現在、2020年2月末の水準まで回復しています。ビットコインは「有事の金」と呼ばれるゴールドの電子版、デジタルゴールドになりつつあるのかもしれません。
おわりに
新型コロナウィルスを前に、私たちの社会がいかにもろいものであるか、そしてそれに対処するために政府が国債を発行して中央銀行がお金を供給しようとする様子を目の当たりにすると、2008年のリーマンショックのあとに、既存の金融システムに疑問を投げかける形でビットコインが登場したことを思い出さずにはいられません。もちろん、アメリカ一国とその金融機関の問題が世界に波及した金融危機と、COVID-19の影響により世界全体が麻痺し、より多くの人がその影響を受けている現状では深刻さが異なります。ただ、私たちが築いてきた社会の何かが間違っていて、システムを考え直さなければならないという点では、当時に通じるものがありそうです。
先にもふれた通りビットコインの価格は2020年3月の急落から回復しつつあるように見えます。世界経済も仮想通貨市場も予断を許さない状況が続きますが、ビットコインが半減期を迎えて生き残り、真にデジタルゴールドとしての立場を築くのか、はたまた別の立ち位置を見出すのでしょうか。2020年5月の半減期はひとつの大きな転換点となる可能性があり、半減期を目前にしたビットコインの動向から目が離せません。