ブロックチェーンを利用して、インターネット上にアップロードされたコンテンツのクリエイターとそれを広めるキュレーターが報酬を受け取る仕組みを提供しようとするSynereoとそのプロダクトWildSparkについて紹介します。
Synereoとは
Synereoはイスラエルのテルアビブに本拠地を置くスタートアップで、人々がどのように物事に注目するかに着目する「アテンションエコノミー」のためのソフトウェアツールやソリューションを開発しています。具体的なプロダクトとしてはコンテンツのクリエイターやキュレーターがコンテンツを共有して、人々の関心を集めることでコンテンツをマネタイズするためのプラットフォームWildSparkを提供しています。
WildSparkについては後述することにして、ここではSynereoのこれまでの歩みを見てみましょう。Synereoは2014年に設立され、2015年の独自トークンAMPを売り出したクラウドセールと、2016年のAMPと株式を売り出したクラウドファンディングで5億円近い資金を調達しました。しかしプロジェクトは順風満帆とはいかず、開発対象が分散型のソーシャルネットワークからブロックチェーン2.0を標榜するRChainに変わり、さらにRChainを開発したCTOが解雇され、プロジェクトに疑念がつきまとう局面もありました。紆余曲折ののちアテンションエコノミーのための分散型ソフトウェアの開発に注力することとなり、2017年3月にはアテンションエコノミーのためのツールキットQratorを初のプロダクトとして発表し、同年8月にはQratorの後継となるWildSparkのβ版をリリースし、現在に至ります。
Synereoが提供するWildSpark
アテンションエコノミーという観点でWildSparkを見てみると、コンテンツの消費者に注目(アテンション)を示す方法としてコンテンツに対して「AMPトークンを投票する」という手段を提供し、コンテンツのクリエイターやそのコンテンツを広め注目を集めたキュレーターがAMPトークンで報酬を得るというアテンションエコノミーを具現化するサービスととらえることができます。
画像: WildSpark
WildSparkでアカウントを作成すると、WildSpark上にキュレーターとしてインターネット上のコンテンツを登録し、他のユーザーが登録したコンテンツにAMPトークンで投票できるようになります。WildSparkはキュレーターとコンテンツにユニークなURLを発行します。キュレーターはこのURLをブログやソーシャルメディアに投稿し、このリンクからコンテンツにたどりついた人たちがAMPトークンでコンテンツに投票すると、コンテンツのクリエイターとキュレーターに集まったAMPトークンが分配されます。
画像: WildSparkのアテンションエコノミーでトークンが分配される様子(WildSparkのイメージ動画より、白字は筆者追記)
クリエイターになるにはWildSparkに別途クリエイター申請し認定を受ける必要があります。
現状はβ版としてWildSparkに登録できるコンテンツがYouTube、Medium、Imgurのコンテンツに限られており、クリエイターはYouTube動画のクリエイターに限られるなど機能は限定的ですが、将来的なシステムの全体像はイメージ動画で見ることができます。
ブロックチェーンを利用した分散型のシステムでコンテンツのクリエイターやキュレーターに報酬を分配するという発想は、本ブログでも紹介したSteemitやその日本版ともいえるALISにも見られますが、最大の違いはプラットフォーム内のコンテンツだけでなくインターネット上のコンテンツを対象とし「インターネットにアテンションエコノミーのメタレイヤーを追加する」点にあります。
※ Steemit、ALISについてはブロックチェーンを使ったソーシャルメディアプラットフォーム「Steem」、ブロックチェーンを用いたソーシャルメディア「ALIS」でそれぞれ詳しく説明しています。
続いてSynereoがどのようにブロックチェーンを利用しているのか見てみましょう。
Synereoとブロックチェーン
WildSparkで使われているSynereoの独自トークンAMPはビットコインブロックチェーン上の分散型アセットプラットフォームOmni Layerを利用して2015年に発行が始まりました。そして、ブロックチェーンに関する今後の展開として、2018年1月、SynereoはWildSparkとAMPを2018年第二四半期にイーサリアムブロックチェーンへ移行することをブログで発表しました。
AMP and WildSpark Migrating to Ethereum Blockchain in Q2 2018 | Synereo Blog
ビットコインブロックチェーンのスケーラビリティーとトランザクションにかかる手数料の高さがWildSpark拡大の妨げになるとして、ビットコインブロックチェーンと比較して手数料が安く、スマートコントラクトが利用でき、Synereoのビジネスロジックを分散型の環境に移せるイーサリアムブロックチェーンへの移行を決定したといいます。AMPはイーサリアムベースのERC20トークンとして新しく発行され、現行のAMPトークンはWildSpark上で新AMPトークンと交換できるようになるようです。
今後の展望
Synereoは今後の計画としてウェブサイトでロードマップを公開しています。現在はWildSparkの本リリースに向けてユーザーを増やし、YouTube、Medium、Imgurに加えさらに多くのメディアプラットフォームに対象を広げるフェーズにあります。2018年第二四半期のイーサリアムブロックチェーンへのWildSparkとAMPの移行が予定され、2019年第四四半期には完全な分散化と分散型のソーシャルネットワークの構築を目指すといいます。
ソーシャルネットワークと仮想通貨といえば、facebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏が2018年年初のfacebookへの投稿で暗号化や仮想通貨に関する技術に興味を示し話題となりました(この投稿の和訳はCointelegraphの記事で読むことができます)。
Every year I take on a personal challenge to learn something new. I've visited every US state, run 365 miles, built an…
Synereoをはじめ、先に触れたSteem、ALISといったプラットフォームで成り立つトークンエコノミーやアテンションエコノミーは、これまでインターネットでコンテンツをマネタイジングする際の王道であった広告モデルを大きく変え、クリエイターからキュレーター、コンテンツの消費者までユーザーひとりひとりに恩恵をもたらす大変革を起こす可能性を秘めています。facebookもこの流れに加わらないとも限りません。今後分散型のソーシャルメディアやソーシャルネットワークがどのように発展していくのか目が離せません。