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  • 更新日: 2021年4月8日

公平かつ透明な音楽の取り扱いを実現する技術としてブロックチェーンが注目を集めています。本記事では、音楽のデジタル化の過程を振り返り、ブロックチェーンが音楽業界にどのような変革をもたらすのか、ブロックチェーンの活用事例、今後の展望を解説します。

 

デジタル化する音楽

80年代にCDの普及が始まり、音楽がデジタルデータとして販売されるようになりました。その後、2000年代にはインターネットの広まりとも相まって、オンラインのミュージックストアで音楽が購入されるようになりました。最初期に音楽のデジタル販売を始めたeMusicの創業は1998年、AppleのiTunesストアはアメリカで2003年、日本では2005年にサービスを開始しています。

2000年代にはいつでも音楽を聴くことのできるポータブルミュージックプレーヤーが一世を風靡し、デジタル化された音楽を身近に持ち歩く流れはスマートフォンに引き継がれています。近年では定額制の音楽のストリーミングサービスを利用するのも一般的になってきました。この分野の大手としてはスウェーデンのSpotifyが有名です。ストリーミングサービスにはAmazon、Apple、Google、LINEといった大手も参入しています。

音楽デジタル化の本流と合わせて押さえておきたいのが1990年代後半から2000年代初頭に利用が広まったP2Pの音楽ファイル共有サービスおよびソフトウェアNapsterです。技術的にも革新的なソフトウェアとして注目を集めましたが、著作権訴訟を抱え敗訴し、サービス停止にいたりました。その後、数度の買収を経て、物議をかもしたP2P色は失われ、現在は欧米を対象にNapsterブランドと技術力を強みに音楽のストリーミングサービスとして存続しています。

Napsterのように分散型で音楽を扱う取り組みは今から20年前、ビットコインとブロックチェーンが誕生する10年前にすでに存在しましたが、著作権つきのデジタル資産である音楽データの正しい取り扱いが認知され、アーティストをはじめとする関係者すべてを考慮したシステムが確立されるには、当時はまだ環境が整っていなかったといえるでしょう。

いつでもどこでも手頃な価格で音楽を聴ける環境が整い、ストリーミングの収益分配といった新たな問題も浮き彫りになる中で、ブロックチェーンは音楽業界に大きな変化をもたらす技術として注目を集めています。

 

ブロックチェーンがもたらす透明性と公平性

音楽という権利つきのデジタルデータを、契約に基づいて金銭を伴い取引するというとブロックチェーンとの相性のよさを感じるという人もいることでしょう。

ある音楽について誰に権利があり、どう収益を分配するのかについては、多くのステークホルダーが関わる複雑な契約が書面で交わされ、膨大な時間をかけて処理されてきました。音楽業界ではアーティストが受け取る金額が少ない、さらに支払いまでに長期間待たなければならないといった問題が指摘されています。

このような状況で、音楽にまつわる権利や契約、支払いに関する情報を改ざんのできないブロックチェーンに記録し、これをスマートコントラクトでシンプルかつ透明に処理し、収益を迅速に分配しようという動きがでてきました。中間搾取がなく自動化されたプロセスで、アーティストは公平かつ公正に対価を得やすくなり、対価の受け取りに長期間待たされることもなくなります。音楽を聴くエンドユーザーは支払った対価がお気に入りのアーティストの手に多く渡ることをうれしく思うことでしょう。

 

ブロックチェーンの活用事例

Ujo Music

画像: Ujo Musicウェブサイトより

音楽とブロックチェーンといえば、2015年にPhil Barry氏が始めたUjo Musicの名前があがります。Ujo MusicにはEthereum Foundationの共同創業者でもあるJoseph Lubin氏が率いるブロックチェーンに関する開発スタジオConsenSysが関わっていて、グラミー賞受賞アーティストでありテクノロジストでもあるImogen Heap氏とのコラボレーションでも知られています。Ujo MusicはEthereumブロックチェーン上に音楽の著作権とメタデータを書き込み、Ethereumでの支払いを受け付けています。

Ujo Music

Blokur

画像: Blokurウェブサイトより

Ujo Musicを立ち上げたPhil Barry氏は、同社を離れた後2016年にイギリスでBlokurを創業しました。Blokurはブロックチェーンと機械学習を活用して音楽の権利に関する正確なデータを提供しするスタートアップです。音楽の権利に関する異なるソースの情報をひとつのブロックチェーン上のステートとしてまとめ、衝突があれば検知し自動的に解決を試みます。Blokurを使って派生作品の権利構造を把握し、アーティストや共同制作者は新しい収益源を生み出すこともできるようです。

Blokur – Better rights data.

eMusic

技術系企業の側からではなく、音楽業界から生まれたプロジェクトとして押さえておきたいのがデジタルミュージックストア老舗eMusicのブロックチェーン化プロジェクトです。音楽業界をよく知る立場のeMusicは、レーベルやサービスプロバイダーといった既存のプレーヤーを排除するのではなく、できるだけ多くの関係者が適応しやすいようにブロックチェーンベースのプラットフォームを作ろうとしています。さらに、権利や支払いに関する部分に限ってブロックチェーンで扱うのではなく、完全にブロックチェーンベースのシステムに移行しようとしている点も注目に値します。
※ eMusicのプロジェクトについて詳しくは本ブログの「ブロックチェーンベースの音楽プラットフォームeMusic」を参考にしてください。

eMusic: Discover and Download Music

その他の事例

Ujo Music、Blokur、eMusic以外にも世界各地での興味深い取り組みがあります。サンフランシスコを拠点にいわばブロックチェーン版Sound Cloudとしてアーティスト、開発者、消費者のコミュニティーを形成しようとしているAudiusはシリーズAで5.5百万ドル(2019年5月現在、約6億円)を調達し、2019年にストリーミングプラットフォームのベータリリースとその後の本リリースを控えています。ブロックチェーンの島を目指し世界最大の仮想通貨取引所Binanceの誘致に成功したマルタからはブロックチェーンベースのストリーミングプラットフォームbitsongが発表されました。また、シンガポールに拠点を置くMusicLife FoundationのMusicLifeはハードウェアも含めたブロックチェーンベースのエコシステムを構築し、動的な価格での音楽取引を実現しようとしています。

 

大手の動向

スタートアップによるプロジェクトのほか、音楽業界大手もブロックチェーンの利用に興味を示しています。

アメリカ、ボストンのバークリー音楽大学とマサチューセッツ工科大学のコラボレーションによるOpen Music Initiativeは2016年に始まったプロジェクトで、ブロックチェーンをはじめとする先進技術を活用して音楽の権利の所有者を同定する標準を策定し、音楽業界にイノベーションをもたらそうとしています。Open Music Initiativeのメンバーリストには、前出のUjo MusicやBlokurのほか、IBM、Facebook、YouTube、Spotify、Sound Cloud、Sony Music Entertainmentなど名だたるIT、音楽業界大手の名前が挙がっています。2018年を境に活動がトーンダウンしているようにも見えますが、アカデミア主導の大手も巻き込んだ動きとして押さえておきたいところです。

Open Music Initiative

大手の個別の動きとして、ストリーミングサービス大手のSpotifyは2017年に音楽の帰属に関する問題を扱うことを目的に、ブロックチェーンを利用してメディアと関連する情報を扱うMediachainを買収しました。

日本では音楽・映像事業を手がけ多くのアーティストをかかえるエイベックスが2018年にエンタメコイン株式会社を設立しました。エンタメコインは社名と同名のスマホ決済サービスをエイベックス・グループ内外に提供します。

エンタメコイン

「エンタメコイン」という名前から仮想通貨とブロックチェーンを組み合わせたサービスを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、決済については旧来の前払い式のスマホ決済です。詳細は明らかになっていませんが、ブロックチェーンはファンからアーティストへの応援を可視化する部分に利用され、エンタメコインのエコシステムはエイベックスやエンタメコインが中央集権的に管理するのではなく、コンソーシアム型の分散型ネットワークとして運用されるようです。エンタメコインについては次のふたつのインタビューが参考になります。

 

今後の展望

2017年後半から2018年初にかけての仮想通貨バブルを経て、2018年の仮想通貨低迷とも相まって、世界の音楽業界大手のブロックチェーン検討の動きは落ち着きを見せました。一方で、スタートアップやデジタル音楽配信に90年代から取り組んできた老舗eMusicといった企業の取り組みはここにきて活発になってきています。

ブロックチェーンは音楽業界の構造、特に収益分配の構造に改革もたらし、アーティストに多く収益が渡り、消費者がよりアーティストに近い形で応援できるようになるという点で注目を集めています。ただし、このような状況を実現するにはブロックチェーンベースのシステムが真にユーザーに使われる必要があります。

ブロックチェーンベースの音楽サービスを利用してみようとすると、使い始める時点でのハードルの高さに驚くことがあります。たとえば、この分野の先駆けであるUjo Musicのウェブサイトでサインアップしようとすると、説明なしにEthereumネットワークとブラウザをつなぐ拡張MetaMaskについてのポップアップが表示されます。仮想通貨に詳しくない人であれば「MetaMask?」と戸惑い、利用を躊躇するかもしれません。これはB2Cのプラットフォームに限ったことではなく、B2Bの場合でもブロックチェーンや仮想通貨に特有の知識を要求しすぎないユーザーインターフェイスは必須です。

日本におけるエイベックスの取り組みは、一見エコシステムの根幹にブロックチェーンと仮想通貨が入り込みきっていない印象を受けますが、まずは音楽ファン一般が技術を意識せずブロックチェーンベースのシステムを使い始める入り口として、巧妙なソリューションといえるかもしれません。

2018年にはゲームという切り口で仮想通貨に新たなユーザーが流入し、ブロックチェーンのスケーラビリティーや手数料の問題を浮き彫りにし、Loom Networkといった解決策が示されました。ゲームよりもさらに多くの人が日常で楽しむ音楽の分野でブロックチェーンが活用されるようになれば、音楽業界の大改革につながるのはもちろん、ブロックチェーンと仮想通貨がより広く一般に浸透するきっかけとしても期待できます。

 

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。

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