2024年4月、ドバイでは仮想通貨とブロックチェーンに関連した多くのイベントが開催され、業界の注目を集めました。TOKEN2049 WEEK(2024年4月15日〜21日)、TOKEN2049(2024年4月18日〜19日)やETHDubai(2024年4月20日〜21日)と併せて現地で開催されたミートアップ、ワークショップ、ハッカソンなどでは、世界中から多くの開発者や投資家、起業家が集まりました。一方ドバイでは4月16日に記録的な大雨が降り、洪水や空港の一時閉鎖などが発生しましたが、一連のイベントは影響を受けながらも予定通り開催されました。本記事では、ETHDubai2024において特に注目を集めたプロジェクトやトピックを中心に、今年のETHDubaiのハイライトをご紹介します。
目次
ETHDubaiとは
概要
ETHDubaiはイーサリアムに特化したブロックチェーン関連イベントで、ドバイで開催されるのは今回が3回目です。イベントでは、イーサリアムに関係する最新動向や新しい技術やサービスに関する議論が行われた他、ハッカソン、ワークショップ、ピッチデモなどを通じて、主に開発者、起業家、投資家で構成される参加者間でネットワーキングをする機会が提供されました。
今回のETHDubaiのスポンサーは、レイヤー1ブロックチェーンネットワークであるXDC Networkを筆頭に、DeFiプラットフォームのBancorやCarbon DeFi 、分散型AIのためのクラウドサービスであるOORT、分散型アプリケーション(DApps)レイヤー2のコンシューマー向けブロックチェーンであるMorphなどがスポンサーとして名を連ねていました。
画像:ETHDubai2024のスポンサー一覧(ETHDubai YouTubeチャネルより抜粋)。ワークショップ提供団体含む
今年の登壇者とイベント構成
イベントでは複数のステージでトークセッションやパネルディスカッションが同時並行で開催され、合計で100人を超える登壇者が参加しました。登壇者の一覧は、ETHDubaiのウェブサイトにて確認できますが、スポンサーやイーサリアム財団からの出席者に加えて、web3プロジェクトの創業者や部門責任者など多くの人が参加しました。
画像:今年のETHDubai登壇者の例(ETHDubaiウェブサイトより抜粋)
トークセッションやパネルディスカッションに加えて、開発者向けのワークショップ、投資家向けピッチイベントとネットワーキング(Demo Day Pitching & VC Speed Dating)、ハッカソンが開催されました。
ハッカソン受賞プロジェクト
ハッカソンは、4月19日から21日までの3日間開催され、合計で32のプロジェクトがエントリーしました。各スポンサーが賞金を設定し、今回のハッカソンの賞金は合計で25,000米ドル(日本円で約395万円)となっています。
32のプロジェクトのうち、8つのプロジェクトが今回のハッカソンでスポンサーから賞金を獲得しました。受賞プロジェクトの概要は以下の通りです。
HabibiCross(Chainlink賞、Base賞、Morph賞受賞)
ユーザーの仕事や学業における成果に対して迅速に報酬を付与するためのプラットフォーム。ユーザーは自分のデジタルウォレットを紐付け、特定のマイルストーンを設定することにより、これらのマイルストーンが達成されると、自動で報酬が仮想通貨で支払われるというもの。
利用した技術:Solidity、Node.js、Next.js、Chainlink、Biconomy SDK、Web3Auth、XDC、Account Abstraction、CCIP、Morph
詳細はこちらを参照。
Survival Bird(Base賞、XDC Network オープンアイデア賞、Morph賞受賞)
4月16日にドバイを襲った大雨から発想を得たプロジェクトで、嵐の中のドバイの街の中を、ユーザーが鳥に乗って駆け抜けるサバイバルゲーム。プレイヤーは一回のゲームごとに0.01 ETHまたはTXDCを預け入れ、そのゲームで最も高得点を獲得したプレイヤーが、賞金プール全体を定期的に獲得するもの。100ブロックごとに、最も高得点のプレイヤーに賞金が配分される。プレーヤーはゲーム終了後に記念NFT「I survived Dubai NFT(ドバイ生還証明NFT)」を獲得できる。
利用した技術:Solidity、CSS、 Vercel、Next.JS、Base、XDC、Morph
詳細はこちらを参照。
画像:ハッカソン受賞プロジェクト(GitHubページより)
Feedback Incentivized(XDC Network トークナイゼーション賞、Neo賞受賞)
Feedback Incentivizedは、金銭的なインセンティブを提供することによりユーザーにバグ報告を促すという、バグ報告のためのプラットフォーム。これにより、ユーザーと企業の間で直接的なコミュニケーションが生まれ、迅速な問題解決とプラットフォームの向上に役立つフィードバックが提供される。
利用した技術:Solidity、 Chainlink、React.js、hardhat、Ethers.js、ICP、Base、XDC
詳細はこちらを参照。
Oathentic(Base賞受賞)
ソーシャルメディアフィードと、NFT(チケット、メンバーシップ、アート、クーポン)を購入する機能を組み合わせたプラットフォーム。ユーザーは、自分のウォレットに紐づいた資産やイベント参加証明(Proof of Attendance Protocol: POAP)に関係するコンテンツやレビューを投稿して、報酬を得るもの。信頼性が担保されたコンテンツやレビューが確保される他、オンチェーンのソーシャル・プロファイルを利用してサービス提供側はユーザーとの関係をより強固なものにすることが可能となる。
利用した技術:Solidity、Ethers.js、React.js、Appwrite、React Query
詳細はこちらを参照。
TradeTez – SDK & API’s for Trade documents(XDC Network デジタルドキュメント賞受賞)
貿易文書の処理を簡素化するプラットフォーム。文書の作成、認証、検証が出来、貿易文書の処理プロセスを効率化し、手続きをスムーズにするもの。
利用した技術:Ethers.js、Node.js、React.js、Open Attestation、Open Attestation CLI
詳細はこちらを参照。
EcoCrowdChain(Neo賞受賞)
サステナビリティを強化する取り組みへの資金提供の方法を革新するエコ・クラウドファンディングプラットフォーム。
利用した技術:Javascript、Ethers.js、web3.js
詳細はこちらを参照。
Zkomm(Gnosis賞受賞)
個人情報を明かさずに接続し、DAOの設立と管理を簡素化するプラットフォーム。カスタマイズ可能なガバナンス設定(柔軟な投票メカニズムとトークンゲート付きのリソース管理、匿名グループへのアクセスなど)、ユーザーフレンドリーなインターフェース、透明性の確保などを提供しているもの。ガイアックスもDAO組成のオールインワンツールであるDAOX(ダオエックス)を提供していますが、DAO導入は国外でも関心のあるテーマであることがうかがえます。
利用した技術:Next.js、Chakra UI、Base、Gnosis、XDC、Morph
詳細はこちらを参照。
画像:Zkomm(Devfolioページより)
CryptoUnity(Gnosis賞受賞)
ブロックチェーン技術と仮想通貨へのアクセスを簡素化して、ユーザーに安全で信頼性の高いツールとリソースを提供するプラットフォーム。複数のウォレットの情報を一元化して、一つのインターフェースで全てのデジタル資産を管理することができる。また、Chainlink Oracleと統合することで、正確で最新の市場データを提供する。
利用した技術:React.js、Redux、HTML5、CSS3、Biconomy、Chakra UI、XDC、Chainlink Oracle、Ankr
詳細はこちらを参照。
特に注目を集めたトピック
次に、今年のETHDubaiのトークセッションやパネルディスカッションなどで、特に注目を集めていたトピックについてご紹介します。
分散型AI
分散型AIは初日のトークセッションとパネルディスカッションのテーマとして挙げられていました。米国のコロンビア大学電気工学科の非常勤教授であり、ETHDubaiのスポンサーの1つであるOORTの創業者であるMax Li氏は、現在広く利用されている生成AIはブラックボックス的な側面を持っており、データの取得元や処理方法について明らかになっていないため透明性や信頼性が十分ではなく、プライバシーや個人情報の保護やセキュリティ面で課題があると指摘しました。
この課題への対処として、データの収集、前処理、モデル設計、トレーニング、微調整、展開といったAI開発の各ステージに誰でも参加できるオープンな構造が求められており、それが分散型AIの考え方となっていると説明されていました。Li氏は、OORTはデータストーレジ(OORT Strage)や計算機能(OORT Compute)など、各ユーザーのビジネスで分散型AIを取り入れたサービスを開発するのに必要な機能を提供しているとしてOORTのクラウドプラットフォームについて紹介を行っていました。
OORTについて詳しく知りたい方は、こちらからご確認ください。
画像:OORTのMax Li氏によるトークセッションの様子(著者撮影)
リステーキング
リステーキングも本イベントで注目を集めた分野でした。リステーキングとは、一度ステーキングした暗号資産を再度ステーキングする技術で、ステーキングを行う側は追加的な報酬を得て資金効率を高めることが出来、プロトコルを開発する側もセキュリティを強化してプロジェクトの拡大を図ることができるというメリットがあります。
EigenLayerは、イーサリアムのブロックチェーン上に構築されたリステーキングのための代表的なプロトコルで、ユーザーはEigenLayerのプラットフォーム上に構築されたプロジェクトAVS(Actively Validated Services)でステーキングされた資産の再利用をすることで、AVSのセキュリティ強化に貢献し、追加の利回りを報酬として得ることが出来ます。
本イベントではEigen LabのDevRel責任者のNader Dabit氏が登壇し、EigenLayer AVSの最大のメリットは、個々の新たなサービスの認証(validation)のために信頼性を検証するための独自のネットワーク(trust network)をゼロから構築する必要性を無くし、共有の安全性(shared security)を提供している点にあると説明していました。また、AVSの代表的な例として、EigenLayerの最初のAVSとしてリリースされたEigenDA (Data Availability)を挙げ、このDAレイヤーがカスタマイズ可能、大量処理能力、ローコスト、帯域幅の指定ができる等の特徴を持っていることが説明されました。さらに、Dabit氏は、他のAVSの例として、Versatus、OpenDB、AltLayer、Caldera、MegaETHなどを紹介しました。EigenLayerのエコシステムについてはこちらのページにまとめられている他、Dabit氏のNotionのページにはEigenLayer関連のドキュメントや動画、ポッドキャストのリンクなどがまとめられているので、興味のある方は是非確認してみてください。
画像:Eigen LabのNader Dabit氏によるトークセッションの様子(著者撮影)
インテント中心のエコシステム
ETHDubaiの2日目の第1ステージは主にインテント中心のエコシステムについて議論が続きました。インテントとは、その名の通り、ブロックチェーンユーザーが達成したい具体的な「目標」や「意図」のことを指します。分散型金融アグリゲーターのParaSwapのMounir Benchemled氏は、インテント中心のシステムを取り入れることで「自分が達成したい目標を、自ら煩雑な手順を踏まずに実現できる」とし、コーヒーの注文やタクシーでの目的地までの移動の例を挙げながら、ソルバー(ユーザーのインテントを達成するために必要な作業を実行する存在で、人やAIボット、別のプロトコルなどが該当)に判断を委ねることで効率的にユーザーの目的が達成されることが可能になっていると説明していました。
他方、Benchemled氏は、現状のインテント中心のシステムの課題として中央集権的な要素や信頼性の確保で問題があるとし、インテントエコシステムの分散化と信頼性の原則を満たすためのインフラが必要であると発言していました。これらの課題への対応として、ParaSwapが現在開発を進めているPortikusを紹介し、分散化されたインテントの実現に向けたエコシステムを作ろうとしていると説明しました。同氏の説明によると、Portikusのローンチは今後5段階で行われるとのことです。(Portikusの最新情報は公式Xからご確認ください。)
- Stage 1 — DORIC: ガスレス取引やMEV保護などの使いやすさ向上機能を備えたインテントDEXのような体験が可能になる
- Stage 2 — IONIC: ParaSwap以外の流動性ソースやソルバー、マーケットメーカーが追加され、アグリゲーターの価格を上回ることを目指す
- Stage 3 — CORINTHIAN: 分散型インテントレイヤーのテストネットワークをローンチし、エコシステムプロジェクトがオークションエンジンを統合できるようにする
- Stage 4 — PALLADIUM: ネットワークの持続性を保証するために、Payment for Order Flow(PFOF)、コミッション、サブスクリプションモデルなどの支払いモデルを導入する
- Stage 5 — VITRUVIUS: ノードオペレーターセットを拡大し、最初のプロトコルがネットワークを活用することで、メインネットにフル展開し、Portikusの分散型インテント”dInts”のビジョンを実現する
画像:ParaSwapのMounir Benchemled氏によるトークセッションの様子(著者撮影)
また、anomaの共同創業者であるAdrian Brink氏もトークセッションに参加していました。 anomaは、インテント中心のシステムを採用した新しいタイプのブロックチェーン技術で、Brink氏は「AnomaはEthereumに万能なインテントマシン(A Universal Intent Machine for Ethereum)」と表現し、これにより開発者はインテントの観点からアプリケーションを記述できるようになり、Ethereumエコシステムのどこでもオーダーや解決、確定されることを可能にすると説明していました。anomaを利用して分散型アプリケーション(dApps)を開発するメリットとしては、パーミションレスの(誰でも参加できる)インフラ、インテントレベルの構成可能性(composability)、情報フローの制御、異なるタイプの信頼性(heterogeneous trust)の4つを挙げていました。anomaのより詳細な情報についてはこちらのページに記載されていて、anomaを利用して開発されたdAppsの例はこちらのページに紹介されていますので、関心のある方はご確認ください。
画像:anomaのAdrian Brink氏によるトークセッションの様子(著者撮影)
インテント中心のエコシステムに関連した議論の中で特にDAOに関連したものが、CoW Swapのプロダクト開発マネージャーを務めるAlex Vinyas氏による、CoWDAOの「プログラム型のインテント」に関する話でした。CoWDAOは、ユーザー保護のためのプロダクトを生み出すことをミッションとしたグループで、これまでにCoWプロトコル(インテント中心の取引プロトコルで複数のインテントの処理が可能)、CoW AMM(流動性プロバイダーを保護することを目的とした自動マーケットメーカー)、MEVブロッカー(ユーザーのトランザクションがMEV(Maximal Extractable Value:最大抽出価値)を称した搾取の手口による被害を受けないように保護するソフトウェア)などの代表的なプロダクトを提供しています。(なお、CoW=「牛」を想起させるロゴや、ソルバーを「milkman(牛乳配達人)」と呼んだりと遊び心が見られますが、CoWは”Coincidence of Want”の略称でpeer to peerの取引を指しています。)
Vinyas氏は現状の課題として意思決定や諸手続きに要する時間によって最適な価格での取引の機会を逸してしまうことや、オンチェーンでの保証の取付、高いガス代や煩雑な手続きなどを挙げ、それらの対応策として「プログラム型のオーダーフレームワーク(Programmatic Order Framework:POF)」を紹介しました。プログラム型のオーダー(PO)とは他のオーダーを生成するオーダーのことで、これらは一つの署名で作成され、予め指定した条件(価格、ボリューム、残高、時間など)が満たされた際に実行されるもので、POFはPOの簡単な作成を可能にするフレームワークを指します。Vinyas氏は、POFのユースケースとしてDAOの自動化について触れ、POFを利用することにより、DAOは手数料の収集、報酬の支払い、財務資産の多様化、債務担保の管理、TWAP(時間加重平均価格)/DCA(ドルコスト平均法)を利用したトークンの売買、またはその他の繰り返し発生するトランザクションを自動化することができると説明しました(POFについて詳しく知りたい方は、CoW Protocolのブログ記事をご参照ください)。
画像:POFのユースケース(CoW SwapのAlex Vinyas氏によるトークセッションの説明資料の一部。ETHDubai YouTube サイトより。)
ZKロールアップ
最後に、ZKロープアップについても、今回のイベントで注目されたトピックの1つとしてご紹介します。ZKロールアップは、Ethereumブロックチェーンのスケーラビリティを向上させるために開発されたレイヤー2ソリューションで、複数のトランザクションをゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proofs、ZKP)と呼ばれる暗号技術を用いて一つの証明にまとめ上げ、ブロックチェーンに記録されるデータ量を削減するものです。(なお、ZKPについては過去の記事「ブロックチェーンで使われるゼロ知識証明とは?」も参考にご覧ください。)
本イベントのトークセッションでは、zkSyncの共同創業者でありMatter LabsのCEOであるAlex Gluchowski氏が登壇し、ZK技術はイーサリアム上のシステムのセキュリティの保証と検証可能性を向上させる観点から極めて重要であると説明しました。また、Gluchowski氏は、現在のweb3の状況をインターネットの発展状況に例えるならば、イーサリアム仮想マシン(EVM)はHTTPで、ZKはHTTPSに相当するとし、web3のマルチチェーンの世界でプライバシー保護や安全性、計算の整合性を保証するにはZK技術が必要になっていると強調しました。
質疑応答の中で、Gluchowski氏は証明を発行するのに要する処理時間について、現在は数分かかっているものも、新しい世代のプロトコルによって今年の年末までには15秒程度になるとし、ZKPは数年以内にはリアルタイムの処理になっていくという見解を示しました。また、同氏は、ZKロールアップはオプティミスティック・ロールアップと比較しても、高速でかつ安価であると説明しました。
画像:zkSyncのAlex Gluchowski氏によるトークセッションの様子(著者撮影)
おわりに
ETHDubai2024での話題となった数々の新技術やサービスは、イーサリアムの将来に大きな影響を与える可能性を秘めています。特に、ユーザーエクスペリエンスの向上と信頼性の確保を目指す技術に焦点が当てられたことは、ブロックチェーン技術の普及に向けた一歩と言えるでしょう。
イーサリアム関係のイベントは世界各地で開催されており、日本でもETHTokyoなどが開催されています。イーサリアムのエコシステムの更なる拡大やダイナミックな進展からは、今後も目が離せないと言えるでしょう。