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近年、Web3技術の進化とともに「DePIN(Decentralized Physical Infrastructure Networks、分散型物理インフラネットワーク)」という概念が注目を集めています。DePINは、分散型ネットワークを活用して物理的なインフラを構築・運用する新しいアプローチです。従来の中央集権的なインフラとは異なり、世界中の個人が貢献者としてインフラを提供し、その対価として報酬を得る仕組みになっています。

2025年時点で650以上のアクティブなDePINプロジェクトが稼働しており、通信、コンピューティング、データ収集など、さまざまな領域で実用化が進んでいます。今回はその仕組みや事例を踏まえて解説していきます。
 

DePINの仕組み

DePINの仕組みは、インフラを提供する「コントリビューター」、それを利用する「ユーザー」、そして両者に適切な報酬を配分する「インセンティブシステム」の3つの要素で成り立っています。

この仕組みにより、中央集権的な管理者を必要とせず、世界中の個人がネットワークの一部として機能することが可能になります。

シェアリングエコノミーとの類似性

DePINの仕組みはシェアリングエコノミーと似ています。シェアリングエコノミーには、①ホストが自分の遊休資産を提供する、②ゲストがそれを借り対価を支払う、③プラットフォームがマッチングを行う、という3つの要素がありますが、まさにDePINの仕組みと一致しています。

DAOとしての側面

さらに、プラットフォームであるインセンティブシステムが自動化されている点から、ルールベースで動くDAO(Decentralized Autonomous Organization、自律分散型組織)が構成できていると捉えられます。報酬分配のレートを決定するアルゴリズムが、コントリビューターやユーザーによる投票によって決定するのであれば、DAOの要件を満たしていると言えます。

このように、DePINはDAOの要素を多分に含んでいるのも大きな特徴の1つです。
 

DePINの事例紹介

Helium: 分散型ワイヤレスネットワーク

Heliumは、世界最大の分散型ワイヤレスネットワークを提供するプロジェクトです。個人や企業が「Hotspot」と呼ばれるデバイスを設置し、通信カバレッジを提供することで、HNTトークンを獲得できます。これにより、中央集権型の通信インフラに依存せず、低コストで広域のネットワークを構築できます。

Heliumは当初IoTデバイス向けのLoRaWAN通信を提供していましたが、現在はT-Mobileとの提携によりHelium Mobileとして5Gモバイルサービスも展開しています。利用者はリーズナブルな料金で5G通信を利用でき、ネットワークの成長とともにカバレッジも拡大し続けています。

https://explorer.helium.com/より

Render Network: 分散型GPUレンダリング

Render Networkは、未使用のGPUリソースを分散型ネットワーク上で共有することで、

CGレンダリングやAI処理の計算コストを削減するプロジェクトです。ユーザーは自身のGPUリソースを提供し、その対価としてRENDERトークンを受け取ります。

2025年時点で、Render Networkには15,691台以上のアクティブノードが接続されており、累計で7,000万フレーム以上のレンダリングを処理しています(Render Network Statsより)。映画制作、3Dモデリング、AI学習など幅広い分野で活用されており、従来のクラウドレンダリングと比較して、低コストかつ高効率なレンダリングが可能となっています。

https://stats.renderfoundation.com/ より

Aethir: 分散型クラウドコンピューティング

Aethirは、エンタープライズグレードのGPUへのアクセスを分散型で提供するクラウドコンピュートインフラです。4億ドル以上のコンピュート容量を持ち、主に2つのプロダクトを展開しています。AIモデルのトレーニングや推論に特化した「Aethir Earth」と、リアルタイムクラウドゲーミング向けの低遅延GPUネットワーク「Aethir Atmosphere」です。1億ドルのエコシステムファンドを設立し、AIおよびゲーミング領域のイノベーターを支援しています。
 

Grass: インターネット帯域幅の収益化

Grassは、未使用のインターネット帯域幅を収益化するプラットフォームです。ユーザーはアプリをインストールするだけで、使っていない帯域幅が自動的に検証済みの機関と共有され、Grassトークンによる報酬を獲得できます。850万人以上のユーザーが世界中で参加しており(公式サイトより)、個人のインターネット接続という最も身近なインフラをDePINの仕組みで活用する好例となっています。
 

D2EcoSys: 共創型デジタルツインプロジェクト

デジタルツインとは、センサーやカメラ、CADデータなどを使い実際の都市をデジタル空間上に再現したものを指します。一般的には、専門業者が3Dセンサーを使って街の隅々までスキャンしデジタルツインのデータを作成します。しかし、D2EcoSys・共創型デジタルツインプロジェクトでは、そのスキャンの部分を市民が担い、以下のようなDePINの要素を兼ね備えています。

  • コントリビューター: スマホや据え置き型の3Dセンサーを設置し市民がデータの取得に参加する。
  • ユーザー: 集まったデータを合成しデジタルツインのデータを作成し購入。主に、デジタルツインデータを活用する自動運転や、ナビゲーションシステム提供といった事業者がユーザーとなる。
  • インセンティブシステム: ユーザーへ販売されたデータへの貢献度に応じて、コントレビューターに分配する。

 

このプロジェクトは、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)のBeyond 5G研究開発促進事業として、早稲田大学、芝浦工業大学、東京工科大学、福岡大学、株式会社ハフト、株式会社ガイアックスが参画し開発が進められてきました。その成果が評価され、2025年度からは後継プロジェクトとして「高弾性ハイパーセキュアな非集中型ストレージによるデジタルツイン流通アプリケーションの研究開発」が採択されています。早稲田大学を代表提案者として、東京科学大学、Casley Deep Innovations株式会社、株式会社ガイアックスが参画し、DePINの社会実装に向けた共創型デジタルツイン流通サービスの研究開発を行っています。

デジタルツインという新しい領域において、データの作成と流通の民主化にDePINの特徴を活用し、デジタルツインのデータを活用する事業者が参入しやすくなり、産業が広がっていく可能性を秘めたプロジェクトになっています。
 
 

AI × DePIN の融合

2025年以降、DePINとAI(Artificial Intelligence、人工知能)の融合が大きなトレンドとなっています。世界経済フォーラム(WEF)は「DePAI(Decentralized Physical AI)」という概念を提唱し、ブロックチェーン・AI・分散型インフラの融合がDePINの次なる成長ドライバーになると位置づけています。

先述のRender NetworkがAIワークロード向けのインフラを提供し始めていることや、AethirがAIモデルのトレーニング用GPUを分散型で提供していることは、まさにこのトレンドを体現しています。分散型のAIインフラは、従来の集中型クラウドプロバイダーと比較してコストを大幅に削減できる可能性があり、特に個人や中小企業にとって、高性能なAIインフラへのアクセスを民主化する手段として期待されています。

D2EcoSysにおいても、市民が収集したデータからデジタルツインを生成する過程でAI技術が活用されており、DePAIの文脈に位置づけられるプロジェクトと言えるでしょう。
 

DePINの未来と可能性

DePINはWeb3技術との融合によって、従来のインフラ構築・運用の在り方を大きく変革する可能性を秘めています。特に以下の4つの点が、今後の発展の鍵となるでしょう。

  1. 投資の効率化:インフラコストの最適化

従来のインフラ投資は、大規模な資本と長期間の回収が必要でした。しかし、DePINでは個人が小口でハードウェアを提供し、分散型ネットワークを形成できるため、初期投資コストを大幅に削減できます。

  1. スケーラビリティ:分散型ネットワークによる拡張性の向上

中央管理のインフラは規模拡大にコストと時間がかかりますが、DePINでは参加者が自由にインフラを提供し、ネットワークが自律的に成長します。

  1. 展開のスピードアップ:中央管理のボトルネックを排除

従来のインフラ開発は、規制や資金調達の障壁があり、時間がかかりました。DePINでは個人や小規模組織が直接インフラを構築できるため、展開スピードが飛躍的に向上します。特に新興国や未開拓市場では、この仕組みを活用することでインフラの急速な普及が期待されます。

  1. 収益モデルの多様化:DAOとの統合による持続可能性

DePINはDAOと連携し、トークンベースのインセンティブを活用することで、ネットワーク貢献度に応じた報酬システムにより、参加者が継続的に関与しやすい仕組みが整います。

 

規制環境の整備

米国では2025年にDeFi関連の規制が一部緩和されるなど、分散型インフラに対する政策環境も徐々に整いつつあります。一方で、DePINはグローバルなネットワークであるため、国ごとに異なる規制への対応が引き続き課題となっています。トークンの分類(セキュリティかユーティリティか)、インフラプロバイダーのライセンス、データプライバシーなど、明確な枠組みの確立が今後の発展の鍵を握るでしょう。

まとめ

DePINは、投資の効率化、スケーラビリティ向上、展開のスピードアップ、持続可能な収益モデルの確立により、新しいインフラの形を築いています。Heliumの分散型通信ネットワーク、Render Networkの分散型GPUレンダリング、AethirやGrassといった新しいプロジェクトの成長、そしてD2EcoSysのような共創型デジタルツインの取り組みは、DePINの可能性を具体的に示しています。

さらに、AIとの融合による「DePAI」という新たな潮流が生まれ、分散型インフラの活用領域はますます広がっています。今後の技術発展と規制環境の整備とともに、DePINが私たちの暮らしを支えるインフラの一翼を担っていくことに注目していきたいと思います。

株式会社ガイアックス Chief web3 Officer。2015年よりブロックチェーンの研究開発を開始、情報サイトBlockchain Bizの運営や3冊の書籍の出版にも携わり、2022年よりDAO組成の伴走事業を開始。鳥取県智頭町・静岡県松崎町らとの「美しい村DAO」の組成や、早稲田大学などと連携し、スマートシティーへ向けたセンサーネットワークの開発も行う。一般社団法人日本DAO協会の設立に携わり、DAOの普及に努める。

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