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  • 更新日: 2021年10月21日

円や米ドルなどの法定通貨との交換レートが一定に保たれた仮想通貨を「ステーブルコイン」(stablecoin)と呼んでいます。本記事ではそのステーブルコインについて、概要、分類、仕組み、そして、今後について解説します。

 

ステーブルコインの概要

ビットコインをはじめとする仮想通貨というと価格の変動幅が大きく、投機以外では使いにくいという側面があります。2010年にピザ2枚を1万ビットコインで買ったプログラマーの話を聞いたこともあるという人もいるでしょう。当時の1万ビットコインは40ドルほどという価値になりましたが、今となっては・・・。これは笑い話ですが、ビジネスで仮想通貨を使おうとすると、受け取る側は価格下落の不安を考慮するとすぐに法定通貨に換金せざるを得ません。

仮想通貨の長所は残しつつ、このような問題を解消するものとして、法定通貨と価格が連動するステーブルコインと呼ばれるタイプの仮想通貨が注目を集めています。古くから有名なものとして、2015年からTether社が発行している社名と同名のTetherがあります。CoinMarketCapのチャートを見てみると、Tetherの対米ドル価格はおよそ1ドルで安定(ステーブル)しています。

画像: Tetherの価格推移(CoinMarketCapより)

ステーブルコイン自体は新しいものではありませんが、仮想通貨やブロックチェーンがより広く知られるようになり、価格が安定し使いやすい便利な通貨のニーズが高まっていると考えられます。価格の安定性という点では直接法定通貨を扱ってもよいのですが、分散型であれば中央集権的な組織にコントロールされない、取引所や他の仮想通貨、スマートコントラクトとの相性がよいなどステーブルコインには法定通貨とは異なる強みがあります。

このような状況で、国際的なIT大手IBMがStellarのネットワークを利用してステーブルコインの実験を開始した、新しいステーブルコインが巨額の資金を調達した、著名投資家の投資を受けたなどといったニュースが報道され注目を集めています。

続いてステーブルコインの分類、背景にある思想や仕組みについて見てみましょう。

 

ステーブルコインの分類と仕組み

ここでステーブルコインを分類してみましょう。

  • 中央集権・法定通貨担保型のステーブルコイン: Tether
  • 自律分散型のステーブルコイン
    • 仮想通貨担保型: Dai
    • 無担保: Basis
    • ハイブリッド型: Reserve

中央集権・法定通貨担保型

Tether社は自社の持つ法定通貨資産を担保にTetherを発行しています。ただし、Tether社という中央集権的な存在があり、特定の取引所との関係、Tetherの価値を担保できるだけの資産が本当に存在するのかなど物議を醸してきました。Tetherはステーブルコインの中で最大の時価総額をほこり、利用されてはいるものの、分散型でトラストレスであることを重視する仮想通貨の本来の思想とは相入れにくい部分もあります。

このような背景から、中央集権的な組織が存在せず、スマートコントラクトで自律的に機能し、より透明性の高いステーブルコインが求められるようになります。分散型のステーブルコインの中には、続いて説明するDaiのように担保をとるものに加えて、Basisのように担保をとらないコインの構想も出てきています。

自律分散・仮想通貨担保型

このタイプのステーブルコインの代表であるDaiは、MakerDAOがEthereumブロックチェーン上のMaker Platformで発行するステーブルコインです。

MakerDAO – Stability for the blockchain

Daiの価格は2017年12月の発行開始以来およそ1ドルにゆるやかに固定されています。ホワイトペーパーでは “soft peg” という表現が用いられているように、厳密に1ドルに固定する方針ではないようです。

画像: Daiの価格推移(CoinMarketCapより)

Daiには開発の主体はあるものの、通貨の発行や管理に関して中央集権的な組織が存在するわけではありません。Daiを使いたい人は、取引所で入手する以外に、スマートコントラクトに担保としてEthereumを送ってDaiを入手することもできます。送ったEthereumはコントラクトの中に保持され、Daiを返還すると戻ってきます。

Ethereumの価格が下落すると、Daiの価格を保証できなくなってしまいます。このような事態に備えてDaiを入手する際にユーザーは150%以上の担保率を設定して、多めのEthereumをスマートコントラクトに送ります。Ethereumの価格が上昇した場合は担保率が増加するだけなので問題ありません。価格が下落した時には、Ethereumを担保としてさらに送るか、Daiを返還するかして担保率150%を保つようにします。この担保率を保てない場合、担保が強制的にロスカットされてしまいます。

この他にも、システムの統治(ガバナンス)や手数料の支払いに使われるMKRトークン、価格急落時の緊急メカニズムなどによってDaiの価格は分散かつ自律的に一定に保たれています。詳しくはMakerDAOによるMKRトークンの解説、Daiのホワイトペーパーが参考になります。

自律分散・無担保型

このタイプのステーブルコインの代表として、Basisというステーブルコインがあります。

Basis | A stable, algorithmic cryptocurrency protocol

BasisはGoogle出身らによって設立され、これまでにGoogleの親会社であるAlphabetのベンチャーキャピタルGVや、シリコンバレーのベンチャーキャピタルAndreessen Horowitzから1億3300万ドルの出資を受けました。まだローンチはしていません。

BasisのウェブサイトではBasisについて “Basis is a price-stable cryptocurrency with an algorithmic central bank.”(Basisはアルゴリズミックな中央銀行をもつ価格が安定した仮想通貨)と説明しています。「アルゴリズミックな中央銀行」とあるのは、プログラムでアルゴリズムに基づいて通貨を発行し、供給量を調整するからでしょう。

Basisの価格維持や発行をサポートするトークンとして、変動価格のShareトークン、Bondトークンが存在します。Basisの需要が減ると、市場に出回っているBasisを回収するためにBondトークン、いわば債権が発行されます。また、Basisの需要が増えるとそのままの供給量ではBasisの価格はあがってしまうので、価格を一定に保つよう新しくBasisが発行されます。Shareトークンはいわばシステムの株式で、新規発行されるBasisを受け取る権利とみなすことができます。新規発行されたBasisはBondトークンの償還にあてられ、次にShareトークン所有者に分配されるといいます。

Basisについては概要や関連する概念を説明したホワイトペーパーが参考になります。

Basis: A Price-Stable Cryptocurrency with an Algorithmic Central 

*2018年12月13日に、Basisプロジェクトの終了が発表されています。

ハイブリッド型

担保をとるDai、担保をとらないBasisのほか、両者のハイブリッド型のようなステーブルコインも存在します。このタイプのステーブルコインの代表として、Reserveというステーブルコインがあります。

Reserveの詳細はまだ明らかになっていませんが、PayPalの創業者のピーター・ティール氏やアメリカで最大の仮想通貨取引所Coinbaseが出資したことを報じたいくつかのニュースによると、Reserveは外部の仮想通貨資産と内部のシェアの両方を用いてコインの価格の安定を図るようです。

Reserve

 

ステーブルコインの用途

ステーブルコインは価格変動が小さく抑えられることから商取引やお金の貸し借りでの利用が期待されますが、現状、仮想通貨のトレードで使われることがほとんどです。Tetherは多くの有名な取引所で取り扱いがあり、Daiは分散型の取引所を中心に扱われています。

トレードでの用途として、仮想通貨の価格下落側面などで一時的に資金を法定通貨にしたいものの、法定通貨を扱わない取引所であったり、海外の取引所だったりする場合、ステーブルコインとトレードしておけば法定通貨で換算した資産の目減りを手軽に防ぐことができます。

 

ステーブルコインの失敗事例

価格を一定に保つのは簡単なことではなく、名前の「ステーブル」に反してステーブルでなくなってしまったステーブルコインもあります。2018年8月現在、NuBitsは当初固定されていた1ドルを大きく割り込んでいます。

画像:NuBitsの価格推移(CoinMarketCapより)

価格が高騰してしまったステーブルトークンもあります。本ブログで以前紹介したSteemのトークンSteem Dollarsは、ステーブルであることを全面に押し出したものではありませんが、ホワイトペーパーによると米ドルとの交換レートは1対1の設計です。一時期大きく価格が上昇して1SBDが10ドルを超え、現在は1ドルを少し上回るほどに落ち着いています。

画像:Steem Dollarsの価格推移(CoinMarketCapより)

価格の高騰はコインの保有者にとってはうれしい状況だったかもしれませんが、「ステーブル」と言われたのにステーブルでない状況はコインを使いにくくしてしまうという点では問題です。

 

まとめ

古くて新しいステーブルコインについて解説してきました。

時価総額の点では依然中央集権的なTetherが最大のステーブルコインですが、仮想通貨の思想に立ち戻った自律分散型のDai、Basis、Reserveといった新しいタイプのステーブルコインが登場し、支持を集めつつあります。とはいえ、これらの新しいタイプのステーブルコインも万能ではなく、DaiはEthereumを担保とするためEthereum以上にスケールできず、世界規模での使用には耐えられないかもしれません。Basisの中央銀行のような設計についても、価格下落時に本当にBondトークンが買われるのか、買われるとしてもBondが積み上がっている状況で恩恵を受けられないShareホルダーにメリットはあるのかなど様々な疑問が残ります。また、これらの新しいステーブルコイン共通の問題として、仕組みが複雑で理解しにくいこと、運用において誰がどのようにして価格の乖離を観測するのかといった問題も存在します。

当たり前のようにも聞こえますが、ステーブルコインは真に「ステーブル」であることが普及の鍵となります。国家でさえ為替レートや市場の資金量の調整に苦慮しています。これを透明性の高く、スマートコントラクトで自律分散型で実現しようというのが現在のトレンドであり、ステーブルコインの大きな挑戦といえるでしょう。

今後、新しいステーブルコインの本格的な運用を経て、設計や運用のベストプラクティスが見えてくることが期待されます。将来仮想通貨がより広く利用されるようになる第一歩として、ステーブルコインの今後の動向を見守っていきたいところです。

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。

ステーブルコイン用語集

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