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環境先進国として知られ、日本同様自動車産業が盛んなドイツでは、電気自動車や充電設備のシェア、充電や道路料金の支払いのためのサービス開発および実証実験が進んでいます。今回はドイツの自動車部品メーカーZF Friedrichshafen(ZFフリードリヒスハーフェン)が中心となって開発を進めるブロックチェーンベースの自動車用ウォレットCar eWalletを紹介します。
※ 画像: ZFプレスリリース ZF, UBS and innogy Innovation Hub Announce the Jointly Developed Blockchain Car eWallet より

 

Car eWalletとは

2017年年初、ドイツの大手自動車部品メーカーZF Friedrichshafen(ZFフリードリヒスハーフェン、以下ZF)がスイスに本拠地を置く銀行大手UBS、エネルギーに関する先進技術の開発を支援するinnogy Innovation Hubとともにブロックチェーンベースの自動車用ウォレットCar eWalletを開発していることを発表しました。

Press release: ZF, UBS and innogy Innovation Hub Announce the Jointly Developed Blockchain Car eWallet | ZF Friedrichshafen AG

ZFは電気自動車の利用者が抱える問題として、走行可能な距離が短く頻繁に充電しなければいけないこと、充電ステーションによって決済システムが異なることを挙げ、Car eWalletはこれらの問題を解決する革新的な決済システムになるとしています。

決済のプロセスをみてみましょう。ユーザーはCar eWalletにコンピューターやモバイルデバイスから送金し、Car eWalletが一定の上限金額まで自律的に支払いできるように設定します。ZFは一例として自動車が自動的に道路料金を支払い、料金所に並ぶ面倒をなくすというユースケースを挙げています。ただ、道路料金の支払いでは、日本の高速道路で利用されているETCカードと比べてそこまで利点を感じません。Car eWalletは電気自動車特有の「充電」と合わせてその価値を発揮します。利用者は充電ステーションを利用するごとに登録したりログインしたりする必要はなく、電気自動車を充電ステーションに接続されると、バッテリーが充電され、Car eWalletが支払いを行います。さらに興味深いのは、Car eWalletは信号待ちなどの間に行われる電磁誘導充電とその支払いまで視野に入れているところです。短時間の非接触の電磁誘導充電では充電できる量に限りがありますが、運転中に少量でも充電を重ねることができれば、頻繁に充電しなければいけないという電気自動車の短所を克服することができます。さらにブロックチェーンベースのCar eWalletは、少量の充電に対する少額の決済(マイクロペイメント)にも柔軟に対応でき、利用者に限らず電力供給者にも新たな収入源として魅力的なシステムとなる可能性があります。

決済機能のほかに、ZFはプレスリリースの中で将来実現される機能として、料金の受け取りや第三者に自動車へのアクセス許可を与える機能に言及しています。車両にアクセスコントロールを設定して他者に貸し出し、料金を受け取ることでカーシェアリングが可能になります。また、トランクにアクセスコードを設定し荷物の配送に利用する、Car eWalletと電力供給源とのより洗練されたインタラクションなどについても構想が練られているようです。

 

Car eWalletとブロックチェーン


(画像: ZFプレスリリース ZF, UBS and innogy Innovation Hub Announce the Jointly Developed Blockchain Car eWallet より)

ZFはCar eWalletをブロックチェーンベースの自動車用ウォレットと説明し、CoinDeskに掲載されたinnogyの分散技術リーダーStockerへのインタビュー記事 “Blockchain Wallets Are Coming (Maybe Soon) to a Car Near You” にはCar eWalletはプライベートブロックチェーンに接続されるとあり、Car eWallet独自のブロックチェーンが実装されるようですが、詳細は明らかにされていません。

モノへのアクセスコントロールとブロックチェーンというキーワードから、以前シェアリングエコノミーのサービスとして『ブロックチェーンとシェアリングエコノミー – Slock.it』というタイトルで紹介したSlock.itの電気自動車のP2P充電プラットフォームShare&Chargeを思い出したという人もいるかもしれません。

次ではeCar WalletとShare&Chargeを比較してみてみましょう。

 

Slock.itのShare&Chargeとの比較

Slock.itのShare&Chargeは個人が充電ステーションを電気自動車ユーザー同士で共有できるサービスです。

ZFが大手自動車部品メーカーであるのに対し、Slock.itはブロックチェーンに特化したスタートアップという違いはありますが、いずれもドイツの大手エネルギー会社RWEの子会社innogy SEの関連会社でエネルギーに関する先端技術やビジネスモデルの開拓を行うinnogy Inovation Hubと連携して電気自動車に関連するプロジェクトを進めています。

Car eWalletが電気自動車に関連する決済、充電、カーシェアリングといったより広い用途を想定しているのに対し、Share&Chargeは充電ステーションの共有に特化しています。また、Car eWalletは自動車部品メーカーのZFが中心に開発を進めているだけあって同社のイメージビデオや前掲のCoinDeskの記事にあるように車載ウォレットとして実装されるようですが、Share&Chargeの充電ステーションの利用者側のインターフェースはスマートフォンアプリでソフトウェアとして実装されています。

サービス開発や実証実験の進展という点では、Share&Chargeは2016年3月にサービスを発表し、9月から始まったドイツでのベータテストを終え、現在事前登録を受付けており、これから実証実験が始まるCar eWalletの一歩先を行っているといえそうです。どちらのプロジェクトも国境を越えた展開を視野に、Share&ChargeのウォレットアプリはアメリカのスタートアップOxygen Initiativeで採用され採用、Car eWalletは2017年下半期にヨーロッパでの実証実験が計画されています。

Car eWalletをSlock.itのShare&Chargeを比較しましたが、自動車部品メーカーとブロックチェーンに特化したソフトウェア企業という得意分野の違う企業であること、また、どちらのプロジェクトにもドイツの大手エネルギー会社innogyが関係していることから競合するのではなく、協調または住み分けといった路線でそれぞれのプロジェクトが進むことが考えられます。

 

Car eWalletのこれから

エネルギーに関するオンライン経済誌bizz energyのinnogyの充電ネットワークの整備計画について伝えた記事によると、innogyはヨーロッパでの充電ネットワークの構築を目指し、フランス、イタリア、スペイン、チェコ、オランダ、フィンランドなどヨーロッパの主要なエネルギー企業と対話を持っているようです。ZFのスポークスマンの発言として、2017年下半期に実証実験が始まることも明かされており、Car eWalletを共同開発しているinnogyのネットワークを活かしたリアルな実証実験や続くサービス展開の可能性がうかがえます。

 

今後日本でも電気自動車や充電設備、関連サービスが広がりを見せることが予想されます。この分野で一歩先を行くドイツでの実証実験の結果や実社会でのサービス展開に注目したいところです。

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Aram Mine

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。

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