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本連載ではEthereumRippleNemBitcoinといったプラットフォームとそれを支えるブロックチェーンについて紹介します。Ethereumに続いて、今回はグローバル決済プラットフォーム「Ripple」(リップル)の生い立ち、得意とする分野、通貨とその発行方法、合意形成の方法について解説します。

 

Rippleとは

Ripple(企業名としてはRipple Labs Inc.)は、国際金融取引の需要が高まる中、独自の分散型の金融技術を強みに、企業レベルで通用するリアルタイムクロスボーダーペイメントのためのブロックチェーンベースのネットワークやコンポーネント、およびプロトコルの開発・提供を行っています。Rippleはネットワーク内で利用される独自仮想通貨Ripple(単位XRP、通貨の呼称としてXRPと表記されることもあります)の発行主体でもあり、暗号通貨の時価総額のランキングによると、Rippleの時価総額はBitcoinEthereumに次ぐものとなっています(2016年11月現在)。

Rippleは金融市場とりわけ銀行市場で大きな変革をもたらしうることから、これまでにGoogle Venturesなどのベンチャーキャピタルや大手金融機関などから総額93.6百万ドル(約100億円)の出資を受け、世界有数の経済誌ForbesのFintech50に2015年2016年の2年連続で選ばれています。

それでは、Rippleの概要に続いて、その生い立ち、得意とする分野、通貨とその発行方法、合意形成の方法、今後の展望について順番にみていきましょう。

 

Rippleの生い立ち

Satoshi Nakamoto氏によってBitcoinの構想が示された2008年からさかのぼること数年、2004年にRyan Fugger氏によってRippleのプロトコルの前身となるRipplepayの開発が始められました。

2011年から2012年にかけてRippleは新しい時代を迎えます。Arthur Britto氏とDavid Schwartz氏による、Bitcoinで採用されているマイニングによるトランザクションの検証ではなく、ネットワークのメンバーの合意によりトランザクションを検証する仕組みが導入され、2012年には新たに設立された企業OpenCoin Inc.にFugger氏からプロジェクトが引き渡されました。OpenCoinはFugger氏のコンセプトにもとづいて、即時・直接送金のための新しい支払プロトコルRipple Transaction Protocol(RTXP)の開発を始め、2013年には企業名をOpenCoin Inc.からRipple Labs Inc.に変更します。企業名の変更と同時にRippleのリファレンスサーバーとクライアントのソフトウェアはオープンソース化されましたが、Ripple Labsは主なコントリビューターとしてRippleの開発に関わり続けています。この時期から、Rippleは、当初Fugger氏がサービスの対象として想定した個人やコミュニティーから、銀行市場にターゲットを移し、Rippleは2014年のドイツのオンライン銀行Fidor銀行を皮切りに数々の金融機関に採用されていきます。

2015年にはブランド名をRipple LabsからRippleに一新し、2016年にかけてオーストリア、ヨーロッパでオフィスを開設するなど、Rippleは拡大を続けています。

Rippleの歴史についてはWikipediaのRippleの歴史の項で詳しく読むことができます。

 

Rippleが得意とする分野

ビジネスの国際化が進む中で、金融機関を始めとする企業には、「顧客にリアルタイムクロスボーダーペイメントサービスを提供したい」というニーズがあり、このニーズに応えるのがRippleのソリューションです。リアルタイムクロスボーダーペイメントサービス・・・というと頭が痛くなりそうですが、一語ずつ意味を追ってみましょう。まず、リアルタイムは「即時の」、続いてクロスボーダーはここでは「国境を越えた」、ペイメントは「支払い」ということで、Rippleを利用すると、国境を越えてリアルタイムに送金できるようになると理解することができます。

何でもリアルタイムの時代に何が新しいのだろうと思う人もいるかもしれません。まずは国内での銀行送金に着いて考えてみましょう。オンラインバンキングで送金手続きをすると、その日のうちに着金する場合でも数時間程度の時間がかかり、取り扱いの締切時間を過ぎると翌日、休日をはさむとさらに送金が完了するまでに時間がかかります。国境を越えた国際送金ともなると、中継銀行を介した送金となり、送金が完了するまでに数日かかり、エンドユーザーが支払う送金手数料は数千円という場合がほとんどです。送金のプロセスが複雑で送金の途中で問題が生じて正常に支払いが完了しないリスクもあります。

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画像:国際送金の現状(動画「Ripple: Real-Time Cross-Border Transactions」より)

Rippleは、送金元と受取先の口座のある銀行をRippleのネットワークにつないで、直接送金できるようにし、クロスボーダーペイメントを数秒、ほぼリアルタイムで実行できるようにします。送金のスピードについてはBitcoinの数十分と比べても速いことがわかります。

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画像:Rippleが国際送金にもたらす変化(動画「Ripple: Real-Time Cross-Border Transactions」より)

銀行など金融機関の視点では、リアルタイムのサービスを顧客に提供できるだけでなく、Rippleのネットワークにつなぎ、送金に関する情報を相手銀行とやりとりすればよいことから、送金ネットワークの構築やメンテナンスにかかるコストを大幅に削減できる可能性があります。

また、Rippleは内部で利用される仮想通貨XRPの発行主体でもありますが、国際送金というニーズを扱うことから、ドル、ユーロ、円といった法定紙幣の取扱いに長けている点でも他のブロックチェーンを利用した仮想通貨プラットフォームと異なるといえます。

 

通貨XRPとその発行方法

Rippleのネットワークの背後にある仮想通貨XRPについてみてみましょう。XRPはRippleの台帳Ripple Consensus Ledgerのネイティブな通貨で、Rippleのネットワークで通貨間の架け橋のような役割を果たしています。

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画像:XRPが法定通貨を橋渡しするイメージ(XRP Portal画像を元に作成)

Rippleは1000億XRPを発行し、これ以上XRPを発行することはないといいます。Rippleのネットワークを利用した取引では、スパム防止のため少額のXRPがネットワーク利用料として消費されるため、XRPの総量は減少していきます。2016年10月時点でRippleは約643億XRPを保有していますが、「他の通貨とXRPとの交換レートを安定化あるいは増価するような結果が期待できる分配戦略を実行する予定」で、XRPへの投資に興味のある組織バイヤーへの販売も含め、2021年までに所有するXRPを500億XRPとする計画だとしています。

XRPを買いたいという個人に対しては、Rippleのウェブサイトに購入方法についての案内があります。また、Rippleのネットワークの状態や法定通貨との交換レートなども公開されています。

 

合意形成の方法

Rippleのネットワークでは取引の記録を台帳に反映する際の合意形成の仕組みとして、Consensus(一般的な英単語としては「合意」を意味します)というアルゴリズムを採用しています。このConsensusアルゴリズムでは、BitcoinのProof of Workアルゴリズムに比べて、高速かつ少ない資源で合意を形成することができるといいます。

Rippleのネットワークは、ノードと呼ばれるトランザクションを承認、処理する多数の分散サーバーよって構成されています。ノードにはクライアントからデータを受取り、トランザクションをネットワークに行き渡らせるtracking nodeと、tracking nodeと同様の役割に加えて台帳を処理するvalidating nodeの2種類があります。ウェブアプリ、モバイルアプリ、金融機関のゲートウェイ、電子取引プラットフォームといった外部のアプリケーションはtracking nodeにつながっています。

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画像:Rippleのネットワークを構成する要素(The Ripple Ledger Consensus Process 図4より)

トランザクションはUnique Node List(UNL)と呼ばれるvalidation nodeの集合によって検証され、これらの合意が得られるとトランザクションが台帳に加えられます。

Rippleにおける合意形成の詳細については、Rippleの黎明期から合意形成のアルゴリズムの開発に携っているSchwartz氏、Britto氏らによるホワイトペーパーおよび開発者向の技術資料が公開されています。

 

Rippleはブロックチェーンではない?

本記事では「台帳」という表現を使用してきましたが、「ブロックチェーン」という言葉は避けてきました。というのもRippleは厳密にはブロックチェーンではないからです。ブロックチェーンの解説では台帳というメタファーが使われますが、まずはブロックチェーンの定義を見てみましょう。日本ブロックチェーン協会のブロックチェーンの定義を引用します。

ブロックチェーンの定義

1)「ビザンチン障害を含む不特定多数のノードを用い、時間の経過とともにその時点の合意が覆る確率が0へ収束するプロトコル、またはその実装をブロックチェーンと呼ぶ。」<狭義の定義>

2)「電子署名とハッシュポインタを使用し改竄検出が容易なデータ構造を持ち、且つ、当該データをネットワーク上に分散する多数のノードに保持させることで、高可用性及びデータ同一性等を実現する技術を広義のブロックチェーンと呼ぶ。」<広義の定義>

Rippleでは台帳技術を採用してはいるものの、特定のノードの集合が、新しく台帳に追記される情報の候補を承認すれば合意が形成される仕組みになっています。この点がブロックチェーンの定義1)にある「不特定多数のノード」という点に反するため、Rippleは厳密にはブロックチェーンでないと言えます。

ここで、トランザクションを誰が承認するかという観点から今一度Rippleの合意形成の過程を見てみましょう。Rippleネットワーク上のvalidating nodeは、UNLと呼ばれるピアとなるvalidating nodeノードの集合(前述の「特定のノードの集合」)から提案、つまり台帳に追記される候補のトランザクションの集合を受け取り、これを繰り返し検証し、UNLのノードの80%以上の承認を得たトランザクションの集合が台帳に追記されます。UNLに属するノードは単体として信頼の置けるものである必要はありませんが、UNLに属するノードは全体として共謀してネットワークを脅かすことがないという意味で信頼のおけるものでなければなりません。Validating nodeは誰でも運用できることもあり、テクニカルFAQ では、Rippleとサードパーティーが運用しているvalidating nodeの中から過去の運用履歴をもとに作られたデフォルトのUNLのリストを利用することを推奨しています。RippleはゆくゆくはデフォルトのUNLのリストを作ることから手を引き、ネットワークの参加者が自主的に公開されているvalidating nodeの品質をもとにUNLを選択するようにするとしていますが、現状はRipple主導の仕組みになっていることからも、不特定多数のノードによる合意形成にはなっておらず、厳密にはRippleはブロックチェーンであるとはいえません。しかし、それを代償に、合意にかかる時間を大幅に削減し、取引の即時性を手にしています。

 

今後の展望

Rippleの主なターゲットは銀行市場であり、以前Rippleが提供していたウォレットアプリRipple Tradeの運営も停止し、金融機関向のインフラとしての立場を堅持し外部に向けてはAPIを提供する立場にとどまり、RippleはB2Bの分野に注力していきます。

また、Rippleはブロックチェーンやその他の台帳同士をつなぐInterledger Protocol(ILP)を開発したり、Web標準化の開発を目的とする国際的なコンソーシアムWorld Wide Web Consortium(W3C)のWeb Payments Interest Groupに参加しInternet of Value Task Forceを創設したりするなど、次世代の金融技術の標準策定に中心的な立場で関わろうとしています。

最後に、日本との関連をみてみましょう。2016年はじめにSBIホールディングスがRippleへの出資とアジア地域を事業対象とした合弁会社SBI Ripple Asiaの設立を発表、9月には追加融資を発表しました。Rippleの利用という観点からは、SBIホールディングスとみずほフィナンシャルグループがRipple の決済基盤を利用した実証実験を開始し、SBIホールディングスとSBI Ripple Asiaが42行とともに「国内外為替の一元化検討に関するコンソーシアム」を発足させるなど、今後、国内の金融機関でもRippleの利用が進む可能性をうかがわせます。

 

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Mine Aram

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。